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クロスファイアパロ

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「悪いね菊。俺としてはもっと君と居たかったけど、組織の命令じゃしょうがないからさ」

体が熱い。これは『力』が溜まって許容量を超えた熱さとはまるで違う。何故?……ああ、開いた穴から血液を流れ出すためか。なんだか、目が霞む。言葉が出ない。足がガクガクと震えるので、少しでも楽になるように雪原に仰向けに寝転んだ。雪の冷たさが少し気持ちを落ち着かせてくれる。
炎の射程外から射撃されたためにアルフレッドさんの姿は確認できなかった。当てずっぽうに炎を放つが勿論手ごたえはなかった。

「もう目も見えないのかな?すぐに参るような場所じゃなかったんだけど……そうか、ちょっと貧血気味だったね。ローション使ってもっとほぐしてあげればよかった」
「なぜ……わたしを……」
「抱いたのかって?そりゃ勿論、組織から命令が降りない限りは俺たちはパートナーであり続けたんだ。いつ終わりが来るかわからないなら楽しんだほうが得だろう?それに菊、君は綺麗だったし」

目を閉じて声に集中し、それを手がかりに炎を放つが反響してどちらから聞こえてくるのか良く分からない。手ごたえはなく、雪が蒸発する音だけが聞こえる。耳鳴りが煩くて彼の声が良く聞こえない。……何故、わたしはこんなにも彼の声を聞きたがっているのだろう……。

「最初から仕組んでいたのですね……とんだ茶番劇です。ふふ……私一人が観客では勿体無いくらいです……」
「茶番といえどきみがあの人の正体に気づかなければ、ずっと夢を見続けられたのに。組織に少しでも疑問を持てばすぐに殺すよう言われてたんだ。少しの間だけど楽しかったよ、菊。さよならだ」

……衝撃はやってこない。そしてアルフレッドさんの気配もなくなっていた。再び目を開けるが勿論彼の姿はない。放っておいても死ぬと判断されたのだろうか。確かに自分は間違いなく死ぬだろう、幾度も人の死を見てきただけに自分自身といえど容易に判断できた。
渾身の力でうつ伏せに返ると、遠くに誰かと話しているアルフレッドさんの姿が見えた。
確かあれは……そう、ルートヴィッヒとフェリシアーノいう刑事だ。
彼らが私に気づくのも時間の問題だ。そうすれば彼は殺人罪で逮捕されるだろう。いや、それとも二人を『押して』記憶を消してしまうのだろうか。
どちらにせよ、そうさせるわけには行かない。

少しずつ、尺取虫のように這って彼らに近づいていく。うまい具合に昨晩持ち込んだ薪が遮蔽となって私を隠してくれた。昨日のうちにこうなることを一体誰が予想できたのだろう。私を撃った張本人のアルフレッドさんですら予想は出来なかったはずだ。

ズリズリと這って進むが雪がクッションになっているおかげで地面とこすれて痛みを感じるといったようなことない。ただあるのは撃たれた腹の熱さだけ。痛みなどとうに通り越していた。きっと、私が這った後には赤い血のあとがまるで川のように続いているのだろう。そしてその跡もこの降り続ける雪が覆い隠すはずだった。私が最後に流す生の証さえこの世には残らない。それで構わなかった。それが幾人も殺した私の最後に相応しい。

ようやく射程圏内に入った。そして同時に遮蔽物もなくなる。見晴らしが良くなるが向こうからも私の姿が見えるはずだ。事実、驚いたように叫ぶ刑事の声が聞こえる。
それに釣られて振り向くアルフレッドさんの表情は驚きでいっぱいだった。
まさか瀕死の私がここまでやってくるとは思わなかったに違いない。
騙されていた彼に一矢報えた気がして笑おうとするが既にその力も浮かんでや来なかった。
時間切れだ。

「貴方は……私が……連れて行きます」

人を操ることに慣れてしまったがゆえに自らの孤独にも気づかなかった貴方。
大丈夫、私が共に逝きますから。

ボゥっと業火がアルフレッドさんの体を包み込んだ。
作品名:クロスファイアパロ 作家名:ban