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コンプレックス

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ぺたぺたと、皮の手袋が俺の身体を撫でる。
別に、いやらしい意味じゃない。
まるで俺の、体つきを確かめるような手つきだ。
両手を水平にあげさせられ、わき腹のあたりから腰のあたりへと手がおりてゆく。
俺は、不審に思いながらも特に何も言わずにそれを受けていた。
なんとなく、あれだ、VIPの部屋に入る前にボディチェックをされているような気分だ。
っと、一通り満足したのか、赤い男は腕を組んで立つと、不満そうな顔をして言った。
「お前、細いな。それじゃぁいつまで経っても出荷できないぞ」
「・・・・・出荷って・・・何処のセリに出す気だよ。あんた」
ギロリと睨むと、にやりとニヒルに笑われた。
クソ・・・。
確かに、俺の身体は目の前に立つ男と比べれば明らかに、成長途上というか中途半端だ。
学校行ってたときは全く持って気にならなかったが、ダンテにあってからは体の造りについてコンプレックスの塊り状態だ。
背は・・・まぁいいとしても、今まで全く気にならなかった、胸板の薄さとか、腰の細さとか、首の細さとか・・・・って何処をどうとっても、俺はコイツより細い。
今までそう思ったことは全くなかったのだが、俺は明らかに・・・
「華奢だな」
タイミングよく言われた言葉に思わず、頷く。
「なんだ、自覚があったのか」
その言葉にはっとして、顔を上げると、ニヤニヤと意地の悪い笑みにぶつかった。
「違う!」
「何が違うんだ?少年?」
「つーか、少年って呼ぶなって!」
「じゃぁ、玲治」
「名前を気安く呼ぶな!」
「じゃぁ、どうしろってんだ?」
笑いながらお手上げという風に両手を広げるダンテ。
イチイチ、さまになって腹の立つ男だ。
「じゃぁ、ご主人様って呼んでよ」
苛立ちを押さえ込み、これでもかというようなとびっきりの笑顔を向ける。
俺は、すぐに拳が飛んでくるだろうと思って、それを避けるべく密かに身構えていたのだが・・・・
「ん?」
降ってこないそれに、俺は真顔に戻って、ダンテを見ると。
「何、その顔」
なんとも微妙な顔をしたダンテがこちらを見ていた。
ええっと・・・・猫が逆立ちしたところを見ちゃった・・・みたいな?って、違うか。
俺の、例えは勇並だな(勇主『恋』参考)とか思ったりして。
ダンテは、しばらくそのままの顔で、俺をマジマジと見た後、口元に手を当ててなにやらモゴモゴと独り言をはじめた。
なんだっつーんだ?この外国人は。俺にはこの男の反応の意味が全くわからない。
あぁ、あれか?また、俺をバカにする気か・・・?
いや、そうだ。そうに違いない。
瞬間、むかむかとしたものが胸に沸いた。
大体、この男は、何かというと俺をバカにして、コンプレックスを煽るのだ。
今回もまた、何かバカにするつもりに違いない。
女の子みたいな顔だとか、腕が細いだとか、腰がおれそうだとか、吹けば倒れるだとか、子猫ちゃんとか・・・って自分で考えていただけで腹が立ってきた。
なにやらブツブツといっているダンテにばれないように、俺は右手に拳を握り、そこに力を溜めた。
しばらくして、なにやら決意したように、ダンテがこちらを見た。
そして、何か言おうと口を開きかける。
っが、俺は彼の声が空気を震わせるのを待たなかった。
思いっきり、その横っ面に拳を叩き込んだ。
思いっきり体重を乗せた、振り切った拳、さすがのダンテも不意をつかれた事との相乗効果で、ふっとんだ。
ふん・・・だてに悪魔どもを拳一つで葬ってないぜ。
何を口走ろうとしたのかしらないが、彼はどうと倒れこむなり、口元を押さえ込んだ。
その顔の愉快なこと!気分が一気に愉快なものに傾いた。
何故って、ダンテが目の縁に涙をためているからだ。
「舌かんだのか?ダンテ?ん?噛み切ったか?」
片方の手で、腹を押さえ、もう片方の手で顔を指差しながら盛大に笑ってやった。
「てめ・・・・っ」
「ん~?なになに?なんなの?ダンテさん♪」
途中で舌が痛かったのか、口を閉じたダンテにイヤミたっぷりに言うと、
「今に見てろよ。体格差ってやつを、身体で実感させてやるからな」
よく分からない負け惜しみがかえってきた。
「そういうの、日本じゃ、負け犬の遠吠えっていうんだぜ!」
俺は涙を溜めながら爆笑してやった。

・・・・ちなみに・・・この数日後に、手痛いしっぺ返しを食らい、体格差をあらためて実感させられることになるのだが・・・・それはまた別の話だ。
っつーか、そんな話、絶対にしねぇーーーっつの!
チクショウ!
作品名:コンプレックス 作家名:あみれもん