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運動しましょ

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見るからに甘く、ベトベトしたそれを食べる男を玲治は不審の目で見つめた。
眉間に皺を寄せ、自分が食べたわけでもないのに口を歪ませている。
彼は、甘いものが嫌いではないが・・・それほど好きでもなかった。
ごく一般的な高校生だったから、ファミレスに男二人で入ったことはあっても、ストロベリーサンデーなぞを頼むようなことはしたことがなかった。
あるいみ初体験。
しかし、ドキドキというよりうんざりとするような光景。
「なんだ?その顔?」
最後の一口を長いスプーンに掬い取り、目の前の男は言った。
「・・・・いや、戻ってきて早々にそれはないんじゃね?とか思ったわけっすよ」
玲治の微妙な顔を見ながら、男は最後の一口を口に押し込んだ。
「んまいぞ。ま、ちょっとボリュームに足りないが、イチゴの味はまぁ合格だ。
 ヘイ、ガール。もう一つたのむぜ。生クリームとアイスをもう少し、多めに頼む。
 それから、ストロベリーソースもたっぷりと頼むぜ!」
ダンテは玲治への言葉もそこそこ、通りかかったウェイトレスにべらべらと英語で話し掛け、最後にはウィンクまでお見舞いしている。
流暢な英語で話しかけられ、可愛らしいウェイトレスのドレスに身を包んだ女の子は困ったような顔をし、助けを求めるような視線を、玲治に向けた。
玲治はため息を一つついて、口を開く。
「おかわりだって。ストロベリーソースのかわりにタバスコをバカスカかけてくれって」
にっこりと微笑み、玲治が日本語で言うと、ウェイトレスは困惑したような顔で・・それでも笑顔を向けぺこりと頭を下げて厨房の方にオーダーを通しに歩いていった。
「何をいったんだ?」
「うーん・・・ラー油にしとけばよかったかな・・・」
「玲治?」
「あぁ、何でもないって。通訳してやっただけだよ。
 それより、次で3杯目だぜ?腹を下・・・いや、腹が出るぜ?俺、嫌だからな。ブタの相棒はいらねぇからな」
「オーケー。分かってるさ。バディ。食ったらその分運動。これが基本だろ?お前も少し食っとけよ」
にやりと笑って言ったダンテに、玲治は白い目を向ける。
「あんたの言うことって・・・どうもイチイチ卑猥に聞こえるんだけど気のせいか?
 それとも、俺が英語の微妙なニュアンスをうまく聞き取れてないのか?」
「お前の英語は完璧だ。ベイビー」
「なーにがベイビーだ。あんたの言葉で覚えた英語は・・・・」
言いかけて玲治は此処で一つため息をついた。
「残念ながら全然使えそうにないよな。」
言われた本人は、その意味することが分からずに小さく首を傾げた。
「どういう意味だ?」
「危険人物に間違われる・・・あーんど、余計なトラブルに巻き込まれそう」
指をぴんと立てて、ダンテを指す。ダンテは突き出された指を見て、なるほどと一つ頷いた。
「納得すんなっつの。変なトコで素直だからタチが悪いんだよな・・・」
「大人のずるさってやつさ」
「はいはい・・・ぉ、来たぜ、ストロベリーサンデー。注文どおり真っ赤だ」
ウェイトレスがこわごわとストロベリーサンデーを置く。
玲治が言ったとおりに真っ赤なそれを見て、ダンテは満足げに口の端を上げた。
「グレイト!」
そして、さっそく長いスプーンを手にとり、クリームにつきさそうとしたのだが・・・
「おっと、待てよ。ダンテ。ここにベリーを乾燥させたチップがある。これも、つけとこうぜ」
言って、玲治は各テーブルに備え付けられている赤い筒状のものを手に取った。
「ハン?そんなものがあるのか?」
「あぁ、“一味(イチミ)”っていって、日本じゃメジャー。覚えとくといいよ」
「イチミ・・・?ハン。相変わらずおかしな発音だな。チャイニーズってやつは。」
玲治が一味をストロベリーサンデーに振りかけるのを見ながら言う。
「チャイニーズじゃなくて、ジャパニーズだって。さ、召し上がれ」
たっぷりとかけたあと、玲治はにっこりと微笑んでダンテを見た。
それを見て、ダンテもまた機嫌がよくなり片方の口の端を上げていう。
「イタダキマス だろ?」
「よくできました」
玲治はにっこりと微笑んだまま言った。そして、そのまま、ダンテがスプーンを思いっきりそれに刺し、たっぷりとタバスコと一味のかかったそれを掬い、口に入れるのを見届けた。
ダンテは、一度二度それを口の中で転がし・・・ピタリと動きを止める。
先ほどまでの笑顔も凍りつき、青白い静電気がパリパリと彼の背中から沸き立つ。
玲治はにっこりと微笑んだまま、ダンテの反応を待った。
「玲治・・・・」
「ん?なに?」
さぁ、なんと言ってくるだろう・・・?
水をかっくらうか・・・それともトイレに駆け込むか・・・・
しかし、玲治の予想は全く外れた。

チャキン・・・・!

玲治は突然のことに目を丸くした。
目と目の間に突きつけられた大型の銃器・・・。
それを持つ腕を辿ると、赤いコートの男が顔を怒りに染めて立っている。
「だ・・・だんて・・・?」
「さて・・・・運動の時間といこうじゃないか。バディ・・・・?」
玲治は、これはまずいと、両手を降参というように顔の横に上げた。
ダンテの顔は・・・・本気とかいてマジだ・・・。
「ちょっとした・・・イタズラ・・・いやジョークだって!」
「はは、面白いジョークだ玲治・・・・たっぷりとお礼をしなくちゃな」
面白いといいながら全く笑っていない男の顔、玲治の背中を冷たい汗がながれる。
悪魔の身ならまだしも・・・
「ま・・・まじヤメテ!俺、今、生身!」
人間である自分がそんなものくらったら・・・半身が吹っ飛ぶ・・・。
死にすぎるくらいに死ぬ・・・!
「俺だって生身だぜ?バディ」
「あんたと一緒に・・・・・!」
言いかけた言葉は大音響に消される。
たらり・・・・今度は額から汗が頬を伝う・・・。
間近で発射された弾丸、耳がわんわんと鳴る。
弾丸は、玲治の後ろの壁に穴を穿ち、硝煙を上げている・・・・。
火薬の強い匂いを放つ筒が、また玲治の目の前にすえられた。
― マジで撃ちやがった・・・・ ―
「だ・・・ダンテ・・・?」
大量の汗を流しながら、微笑み、もうしません。何でも言うこと聞きます。ゆるしてちょーだい。そんな言葉を言外につたえてみる。
その玲治に、ダンテはにっこりと・・・悪魔のような微笑をみせ、左手にも銃器を握った。
そして・・・

「ぎゃーーーー、まってまって、ダンテ、タンマタンマ!!!!!!」

玲治の叫び声に続いて、銃のド派手な発射音、客たちが阿鼻驚嘆の声をあげ、逃げ惑う。
まさしく地獄絵図がそこに再現された。
ガラスが割れ、机が倒れ、人が人を押しのけ、悲鳴をあげ、そして弾丸がその隙間を縫っては壁に穴を開けていく。

「ま・・・マジ、死ぬって・・・・!!!!!!!」

遠くからパトカーのサイレンが聞こえるまで10分あまり・・・玲治は、カグツチもかくやという鬼神・・・いや半人半魔をを相手にただただ逃げに徹した。
作品名:運動しましょ 作家名:あみれもん