Shooting Star
目の前を星とひよこがクルクルまわって、右の目の玉と左の目の玉がてんでばらばらに動いたような気がした。
ぶるりと頭を振って焦点を戻す。
途端に耳に響いたのはダンテの馬鹿笑い。
玲治が口の中のアルコール分を飛ばすように火を噴くと、軽く手を振ってそれは払われた。
「なんだ、さっきの顔は・・・!あははははは、はははは」
「て・・・めぇ・・・何飲ませやがった!」
「飲ませたって、お前が勝手に人のグラスをとったんだろうが」
「・・・っ!でも!水だと思ったんだよ!」
「あぁ、水だぜ、水」
「嘘つけ!!!水で火が吐けるか!」
「お前は燃料が無くても火を噴くだろうが」
「それとこれとは別だろうが!」
ガンッと拳をカウンターに叩きつけると、中に入っていたニュクスママがいやな顔をしたので玲治は小声で謝った。
「なんなんだよ!これは」
幾分声を落として言うと、彼はお変わりをニュクスママに頼んでそれの正体を教えてくれた。
「ウォッカだよ」
「ウォ・・・・って、全然水じゃねぇじゃねぇか!」
「いや、確か語源は“水”だったはずだ」
「でも水じゃねぇだろう!」
「あー・・・もぉうるせぇガキだな。ヘイ、ママ、このガキにミルクでもご馳走してやってくれ」
「ダンテ!」
もう一度手を振り下ろすと、ビシッという音と共にカウンターにヒビが入った。
「おきゃくさーん?」
ニュクスママのそこはかとなく怒りを含んだ声。
玲治は引きつった笑いを浮かべながら彼女の方を向き、それからすばやくストック空間に手を入れるとそこから碌に選ぶこともせずに数個の宝石を取り出すと彼女に黙って差し出した。
彼女の方も何も言わずにそれを受け取り、ついでミルクの入ったコップを少々乱暴に彼に差し出した。
そのやり取りの間、玲治の隣に座っていた男がクスクスと笑いながら肩を震わせていたが、もう玲治には怒鳴ることは出来ない。ただ顔を恥ずかしさと怒りに顔を赤くして耐えるしかない。
ふるふると震える両手でコップを包み込むようにして持つと、こくりと飲んだ。
砂糖をいれたのかと思うような甘く冷たいミルク。一気に飲み干し、ほっと息を付いてコトンとコップを置くと、またククククっと隣から偲び笑いがして、ギンと隣を睨みつける。
「おま・・・玲治・・・髭・・・」
「ひ・・・げ?」
一瞬何のことかと考え、自分の口の周りに牛乳の白い滴がついているのだと思い至ると、耳まで真っ赤にして口元をごしごしと腕でぬぐう。
それを見て、ダンテが腹を抱えて声を押し殺す。
玲治は全身すらほのかにピンクにそめて、両手で顔を覆ってカウンターに伏せ、足をじたばたとさせる。
中に入ったニュクスはこの奇妙な客ふたりを交互に見つめ、小さく首を振った。
この二人は仲がいいのだか悪いのだか本当にわからない。
最初にあったとき・・玲治はそれこそ険悪な顔で、あの男、次にあったら五体満足で生かしてはおかないと息巻いたものだった。その次もたしかそうだ。ダンテという男に対して、ズタズタに引き裂いてやるといっていたようなきがする。
それが・・・どうだ。
ある日、ひょっこりとその男を伴って此処に訪れた。
多少居心地がわるそうではあったが、二人で並んでカウンターにつき何を喋るでもなくグラスを傾けた。
それから二人は肩を並べてちょくちょくと顔を見せるようになるのだが、そのたびに先ほどのような喧嘩をしていたり、時には乱闘騒ぎになったり・・・。
店にもなんど修理のものを入れたかわからない。
ニュクスとしてはいつ彼らがそれこそ生死をかけての戦いをするのだろうかとひやひやしているのだが、決定的な事は今のところ無い。
だから、
「もうしらねぇよ!」
今日のように、玲治が先にバーを出て行っても、また数日後には二人で肩を並べて此処にやってくるのだろう。
玲治ののこしたカップを回収しながら、ちらりとダンテの方に視線を向けると、彼は玲治が出て行った扉の方を見てウォッカのグラスを傾けていた。ニュクスが見ているのに気付くと、意味ありげに口の端を引き上げる。
意地の悪いようなその笑みにニュクスが、
「あんまり苛めて、嫌われても知らないわよ」
と、揶揄するように言ってみるが、ダンテはこたえない。
グラスを一気に傾け飲み干すとお変わりを指で頼みながら言った。
「ふん。それくらいで切れるような安っぽい絆じゃないんだよ。俺たちのはな」
「・・・・貴方の一方的な思い込みじゃなくて?」
あまりにも自信たっぷりの言い方に胸焼けを覚えるニュクス。
しかし、ダンテは全く気にも留めない。
「相思相愛ってやつさ」
「・・・・ごちそうさま」
八重歯を見せるようにして笑う悪魔狩りに付き合ってられないとニュクスは首をふり、これ以上のおかわりは自分で注げとばかりにウォッカのボトルをドンッと置くと、彼の傍から離れた。
作品名:Shooting Star 作家名:あみれもん