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プーちゃん殺人事件

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府警での調書作りに手伝わされ、11時過ぎにお役目ゴメンとなった俺は、京都まで帰る元気もなく、明日はちょうど休みだということで現代のエラリー・クイーンを自称する男の部屋へと向かった。
一応電話をかけると、快く了承してくれた。が、電話での声がぼんやりとしていることに、電話を切ってから眉をしかめた。
恐らく、締め切りが迫っているのだろう。
大学時代から付き合いのある彼は、かなり特異な性質をもっていて、締め切り前ともなると、数日は飲まず食わずに過ごしたりする。ほっといたらそのまま死んでしまうのではないか・・・というのは、冗談ではなく本当だ。
ゲッソリとやせ細り、ゾンビのようになっていた彼をマンションの玄関で見かけたことが数度ある。
俺は、いつ彼の死体の第一発見者になるのだろうかと内心どきどきなのだ。
今回もその状態に近いのだろう。俺は深く息をつき、気を取り直すと彼のマンションへと向かった。
無論、途中にある24時間のスーパーに寄るのも忘れない。
どうせ、やつの冷蔵庫なぞ、すっからかんか腐った食い物しかないに違いない。
野菜を一通りカゴに放り込み、牛乳や肉類・魚類を一通り購入。忘れてはならないのはアルコールだ。
そして、レトルト食品もいくつかかっておく。俺自身は好きではないが、やつには備えあれば憂いなし。
食い物がなければ食わない男だが、あれば食うはずだ。
そして、菓子もかってやる。料理すら面倒くさいときにはこれで済ませるだろう。
カゴ二つ分もの買い物をすませ、彼の部屋へと向かった。

ピンポーンと呼び鈴を押すと、はぁいとかすかにドアの向こうからきこえた。
やがてガションという鍵のはずされる音と共に、この部屋の持ち主、有栖川有栖が顔を出した。
思ったとおり、半ゾンビとなっていた。
真っ白な肌は、げっそりとして骨にしがみついているといったかんじだ。
そのくせ目がらんらんとしていて、グレイのようだ。
俺たちは、いつものような中身のない会話をし、玄関へと入った。
キッチンへ向かい、冷蔵庫に一通りなおしおわると、リビングへと向かう。何か食うだろうかと聞こうとおもった俺はそこで足を止めた。
テーブルの傍にあるソファに座っていた有栖川有栖は、俺には気付かずに新聞をめくっている。
「なんだ・・・・?こりゃ・・・」
俺の声はアリスには届かず、彼はすぐに新聞をとじると、腰を上げた。
「俺、仕事あるから、適当にくつろいどってなぁ」
そういうと、アリスは俺の前を横切り書斎へと入ろうとする。俺は、とっさに彼の肩をつかみそれを阻んだ。
「オイ!まてアリス!コレは一体なんだ!」
「ん?」
俺が怒鳴って指を指した先・・・。テーブルには、ナイフとぬいぐるみがあった。
普通にそれら二つが並べてあっても俺は別になんとも思わないだろう。推理作家のこの部屋には、商売道具としての荒縄やら、ナイフ、薬箱、大きなハサミが数種類などあるし、そしてぬいぐるみも、ファンから送られたものがたくさんある。
だが、そのぬいぐるみは・・・。一応説明しておくと、それは黄色い直径15センチくらいのあざらしのぬいぐるみで、よくゲームセンターの景品にあるようなものだ。その背には深々とナイフが刺さっている。
「ん?じゃねぇ!なんだと聞いている!」
彼は話の中でこそ、残虐なことをやってのけるが、このような事をした彼を俺はしらなかった。
だから、もしや侵入者なりストーカーなり、過剰なファンなどが侵入してこんなことをやらかしたのではないかと考えたのだ。
だが、当の本人はぼんやりとしていて、
「あぁーぷーちゃんか。俺が殺した」
と言った。ぷーちゃんというのは、おそらくこのぬいぐるみのことだろうと予想がつく。
それより
「お前がやったのか?」
それは、かなり意外なことだった。彼がこのような行為に及ぶとは想像もつかなかったのだ。
「あー。うん。衝動的な犯行やった。情状酌量の余地ありやで」
「・・・・の割には、反省の色無しだな」
この言い方からして、彼は錯乱して(つまり、締め切りに追われて頭がおかしくなって)やってしまったわけではなく、正気のうちにやってしまったのだろう。俺は少し安心した。
「いや、ふかーく反省しとる。」
そういって、大きなあくびをすると、目の縁にういた涙をしめして、「ほらな?」と言った。
「寝てないのか?」
「あぁ、64時間ほどな。せやから、ついカッとなってやな」
「殺してしまったのか」
64時間も起きて仕事をしていたのか・・・。こいつ本当にどういう生態をしているのだろうか?生物学者に差し出せば、喜んでくれるかもしれないな・・・。いや、ギネスに挑戦とかできるんじゃないだろうか?
「おまえ、生き物を飼ってなくて正解だよ」
「んな!俺かて、生き物を殺さんくらいの常識はもっとる!」
どうだか・・・こうやってナイフを刺すことはないにしろ、気付いたらペットが餓死してました・・・なんてありそうじゃないか?
「かわいそうに」
「俺がか?」
「馬鹿、ぷーちゃんが、だよ」
そういうと、俺はテーブルに打ち捨てられたアザラシのプーチャンを手にとると、ナイフを抜こうとした。
「あ、あかん」
と声が飛んできて、思わず手をとめると
「ナイフ抜いたら失血死してまう」
何をとんちんかんなことをいっているのか・・・。
「お前、殺したんだろう?」
言うと、彼ははっと気付いたような顔をして、そして納得したように頷く。
「せやった。あれは20時間前の犯行やった」
「もう、死斑も出てるよ」
「せやなぁ。なぁ、火村」
「ん?」
「悪いけど弔っといてくれぇ。俺は罪を償うために、あと2時間書斎にこもるわ」
俺は肩をすくめて、了解する。
「出てきたら、シャバのうまい飯をくわしてやるよ」
彼の背中に向かって言うと、彼は片手をあげて、ありがとうな、といった。
パタンと書斎のドアが締まるのを聞きながら、俺はプーチャンからナイフを抜き、落ちていた新聞を細くさいてさらしのように巻いてやった。
ナイフは、ケースの中にしまい、俺はキッチンへと立つ。
あとで、コーヒーを差し入れすることにしよう。進み具合によっては、刑期をはやめてやらないこともない。
作品名:プーちゃん殺人事件 作家名:あみれもん