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禁断

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火村は飛行機のなかで、悪魔ですらも家財道具いっさいを放り出して逃げるくらい機嫌がわるかった。目は血走り、眉間には深い溝ができ、くいと結ばれた唇は力の込めすぎかいくぶん紫色に見える。
指は始終リズムを刻むようにうごいており、ときどき長めの髪をかきむしる。
悪魔ですら逃げ出すような雰囲気なのだから、普通の人間などひとたまりもない。
運悪く彼の近くの席についたものはみな寝て(寝たふりをして)いた。
その結果、彼の三メートル以内にいる人間はみな寝ているという異様な光景がみられた。

その彼の乗る飛行機が徐々に高度を下げ、やがて滑走路につくと男はにやりと笑った。だが、眉間に皺をよせ血走っためでにやりとするその顔はどうみても犠牲者を廃墟に追い詰め“逃げても無駄だ”とか言いながら笑う殺人鬼のそれだ。
火村は飛行機に階段が設置され、ドアがあけられると人をかきわけて走りだしたい衝動を必死に抑え歩きだした。彼のまわりにだけ人が寄り付かないのは、けして気のせいではない。飛行機の出口付近で見送りをしていたスチュワーデスは、突然人並みが途切れたことに少し驚き、ついで、彼が表れたときには喉の奥で悲鳴をあげた。
それでも、笑顔を崩さなかったのは流石はプロフェッショナルと拍手を送りたいところだ。

さて、その彼はようやく空港のロビーにたどり着くと、左右を見回し、目的の物を探した。
見やった先に、旧知の友人で、現在は推理小説家をしている男が笑顔で手を振っているのが見えたが、とりあえずそれは無視しておく。
何度か左右を見渡すうちに、その小説家の顔が段々不機嫌になっていくのにも気付いたが、それもあえて無視だ。なにせ、火村には余裕がなかった。
だが、向こうもその彼の態度にはかなり苛立った様子で、彼にしては珍しく怒気をあらわにしてこちらに歩み寄ってきた。
「火村!」
自分を呼ぶ、推理作家の声に火村は舌打ちをし、なんとなくその方向に背を向けた。
「おい!きこえてんやろ!お前の親友の有栖川や!!!」
どうやら、腹は立っていても、自分の名前(アリス)を大声で叫ぶのには抵抗があったらしい。
火村は、目的のものが見つけられないのに苛立ち、そして背後から大声でしゃべりながらずかずか近寄ってくる男に眉間の皺を一本ふやし、そして、後から火村自身も “何であんなことをしたんだろう” と首をかしげるような行動を起こした。
つまり、アリスから逃げるように走り出したのだ。
「あ!」
と背後で、男が叫んだのが聞こえたが、火村はかまわず駆けた。
駆けた。駆けた。
大勢の人でごった返す空港の広いロビーを器用にすり抜けながら走った。
「コラ!またんかい!ぼけ!!!」
すぐに振り切れるだろうと思っていた火村だが、アリスは結構しつこかった。いつもは体力不足で階段ですらヒーコラいってるくせに、火村から殆ど離れずに追ってくる。
まぁ、火村の方が人の波を分ける手間があり、彼はその分かれた人の間を悠々と走っているのだから当然といえば当然なのだが・・・。
火村はその間も、人の波とそして目的の場所を目で探しながら走った。
だが、後ろから “この薄情もん!” “なんやねん!どこいくねん!” などと関西弁でまくしたてられ、ちらりと後ろを振り返った。そして、左手に抱えていた黒いボストンバックをアリスに向かって放った。
「うわぁ!」
突然、ボストンバックを放られた方は、それを避けるわけにも行かず受け止めようとし、バランスを崩し、そして盛大に転んだ。
「悪いな。アリス」
空港に到着して火村が初めて口を開いた。
「悪いで済むかぼけぇ!!!!」
上半身だけをむっくりと起こして、アリスは叫んだがそこにはもう火村の姿は無かった。

40分後―――
「つまり・・・・禁断症状かい・・・・」
5メートル四方の区切られたスペースの中で、アリスは腕を組んで立っていた。
いわゆる、喫煙コーナーというやつだ。
「あぁ、死ぬかと思った・・・」
答えたほう、つまり火村は茶色の長いすに前傾姿勢で座り、近頃は公共の場では喫煙が云々などと言いながら紫煙をくねらせていた。
眉間の皺もすっきりとおち、なんとも幸せそうな顔をしている。ある意味、この顔も怖いのでこの狭いスペースの中にいるのはアリスと、そして彼だけだ。
「まったく・・・君、えぇ根性しとるわ」
「だから、悪かったってあやまってるだろう?ちょっと錯乱状態だったんだ」
「チェリー」
「なんか言ったか?」
「錯乱坊」
「ふるい上に、俺は坊主じゃない。」
「黙れ。それより、お前のせいでひどい目にあったんやからな!」
「何かあったのか?」
そう聞く火村は、対して興味はなさそうだ。彼にとっては煙草が吸えればそれでいいらしい。
だが、アリスはそれが分かってても文句は言えない。彼から煙草をとったら何がのこるというのだ?煙草の煙のかわりにエクトプラズマでもだしそうじゃないか・・・。あぁ恐ろしい。
「君が、俺にボストンバック投げつけてから、えらい形相で警備員の人がかけつけてきたんや」
「へぇ・・・?」
これには少々興味を引かれたようだ。火村は顔だけ、アリスのほうに向けると眉を上げた。
「それから、大変やったでぇ・・・君、一時、強盗犯か、ハイジャック犯ってことになってたんやから」
「はぁ?」
「俺かて驚いたわ、きっと、その警備員も動転してたんやろうなぁ・・・・
 俺が、彼は友人やっていって、ボストンバックの中身見せてたようやく納得してくれたわ・・・・」
それを聞いた、火村は心底おかしそうにクククと笑う。
「笑い事やないで」
「そうだな。犯罪学の本なんか入れてなくて運がよかった」
確かに・・・と、アリスは思い至り内心冷や汗で乾いた笑みを浮かべた。
「しかし・・・ちゃんと埋め合わせはしてもらうからな・・・・」
冗談めかして睨んで見せると、禁断症状から開放された助教授は肩をすくめた。
作品名:禁断 作家名:あみれもん