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蕎麦

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「お、来たか火村」
私は長年の友人である男を、31日の午後9時過ぎに部屋に招きいれた。
大学の助教授という大層な職業をもっているその男は、頭はいいし顔はいいし・・・男の敵を具現化したらこの男そのものになるような奴だ。つまり男の敵、NO1にして男の敵のISOをとってるような奴だ。その分、愛想が極端に不足しているのは、神様の慈悲深いところだと思う。まぁ、火村という男は神様という存在そのものを、否定しているが。
だがなぁ、火村よ。宗教っていうのは・・・
「何さっきからぶつぶつやってるんだ?お前は」
ふと気付くと、私は、手を組み、片手で顎を支える格好で玄関で立ったままの火村を見下ろしていた。
「お前がそこにいるとあがれねーんだけどな」
「あ・・・そうか。すまんなぁ。」
横によけると。火村はしっかりしろよとつぶやきながら私の前を通り過ぎた。
彼がまっすぐに向かったのはリビング・・・ではなく、台所。
慣れた様子で持ってきたスーパーの袋を台に置くと、なべを棚から取り出した。
「何作るんや~?」
入り口から覗いていると、火村が手をとめこちらを見た。
「決まってんだろ。蕎麦だよ蕎麦」
「蕎麦かぁ・・・・」
「何だよ不満なのか?」
はっきりいってしまうと・・・不満なのだ。毎年毎年・・・蕎麦・・・。ちょっと芸がないと思うのは私だけだろうか。
細く長くというのなら、素麺だっていいではないか。
っという私の心の声が聞こえたのだろう。火村はにやりと口の片側を引き上げた。
「なんなら、今年はスパゲティにでもするか?」
「チャンポンでもええで」
っというと、チャンポン玉はないといわれて却下。買い置きのあるスパゲティに決定する。冷蔵庫を覗き込んだ火村がいくつかの野菜を交互に手にとって考えている。
「そうだなぁ・・・お、カリフラワーがあるじゃねぇか」
「あぁ、こないだ行ったレストランにあった温野菜サラダに入っとってな。」
「っで、作れもしねぇのに買ったのか」
「・・・・まぁ、一言で言うとそうやな・・・」
「一言じゃなくてもそうじゃねぇか・・・」
確かにそうなのだが・・・いちいち腹の立つ男だ。
「クリームパスタでいいか。ブロッコリーとカリフラワー・・・人参・・・しめじ・・・どうだ?」
「ええんちゃう?」
気のない返事になってしまうのは、彼の料理の腕が確かであり、いちいち私が口を出すこともないからだ。
火村も一つ頷いただけでそれ以上は何も言わず、料理の支度にはいる。
「別に見張ってなくても毒なんかもりゃぁしねぇぞ」
っとの言葉に、私は台所の入り口から移動し、リビングのソファに座った。テレビではNHKの紅白があっている。
昔はそれなりに面白かったような記憶があるのだが、近年の紅白は見ていて全く面白くない。
今は女性の演歌歌手が歌っていて、はっきりいって今日はじめてきいた曲だ・・・。そんなことを考えていたら、キッチンの男が格闘技に変えろとリクエストを出してきたので、私は大人しくチャンネルを変更することにする。
キッチンとリビングとは簡易な仕切りで仕切られていて、料理をしながらテレビが見れるようになっているのだ。
格闘技はいくつかチャンネルがあったが、どれも12時付近に照準をあわせているので、今はまだマイナーな選手たちがやっていた。
細身で締まった身体をしたムエタイ風の構えをとる浅黒い男と、巨体で白い体、力が全てといった風の大男との戦い。
だが、すぐに戦いが始まるのかといえばそうではない。男たちのプロフィールとこれまでの戦歴をまとめたプロモーションビデオのようなものが流れるのだ。私はこの手の演出をなかなか楽しく見ているのだが、火村のほうはどうなのだろうかとちらりと視線を向けると、彼のほうは気に食わないらしく、耳だけを傾けたような状態だった。
なんだかんだで、結局細身の男のほうが大男をロープ際まで追い詰め、蹴りとパンチの連打を浴びせかけ、白い大男が崩れて3カウント。そして、メインの試合のCM・・。
っと、そんなことをしているうちに30分がかるく過ぎ、台所からはいいにおいが漂ってきている。
私がそちらを気にしていると、火村と目が合った。
「気になるなら、テーブルの上を片付けろよ」
「あ、うん。わかった」
多分このリビングで食事を取るのだろう。私はテーブルにのった雑誌類を重ねて整えると、ソファの横へとそろえておいた。
「台拭き放って~」
火村にいい、投げてよこされた台拭きでテーブルを拭く。台拭きを片付けるついでに、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、食器類を用意してやる。自然に生まれたこの一連の分担作業。やってて少々むなしくなる。
「お前、今、むなしいとか思ったろう」
「おぉ、さすが火村先生、よぉわかったな」
「馬鹿、俺も、今まさにそう思ったんだよ」
さいですか・・・。
火村はパスタを食器にもっている。その間に、私は炊飯器からライスをよそう。思わずため息が漏れそうになって、あわててそれを封じ込めた。

テーブルの上に並べられたクリームパスタと缶ビール、ライス、そしていつの間につくったのかポテトサラダ。今年最後の晩餐としてはなかなか・・・と思っていると、火村が眉をしかめているのに気付いた。
「なんや、どうかしたんか」
「いや、肉とか魚がないなっと思ってな」
そういえばそうだ。
「ま、ええんちゃうか。さ、くうで」
そういって、二人で手を合わせて食事に入る。格闘技は日本人選手と南アフリカ出身者。
「ん~。んまいで~火村~」
「あたりまえだ。」
ほめがいのない奴。これが可愛い奥さんとかやったら、カリフラワーに芯がのこっていなかったかしら?とかなんとかいうてやなぁ・・・そんなことないよ~とかいう甘い展開が生まれるわけやろうなぁ。
はぁっとため息をつくと、火村は全く気にした風もなく、日本人の放ったミドルキックにヨシッっと声を上げている。
「来年こそは、かわえーおくさんと新年をむかえたいもんやわ」
「無理だろ」
まったく可愛げのない男だ。
ブチブチと文句を言いながらパスタを口へと運んでいると、助教授先生の携帯がなった。
火村は忌々しそうに舌打ちをして、壁にかけたコートへと足を運ぶ。
「はい・・・ええ・・・いえ、大阪です。」
私は切れ切れに答える火村の返答を聞きながら、パスタを掻き込むスピードを上げた。
「わかりました。・・・いいえ。すぐ行きますから」
よかった。まだビールに私は口をつけていない。
「おい、アリス」
「わかっとる。事件やな?」
こちらを振り向いた火村ににやりと笑って見せると、彼は嫌そうに顔をしかめた。
「お前と以心伝心になっても仕方ないんだな・・・」
その言葉に、私も眉をしかめた。
全くその通りだ。
作品名:蕎麦 作家名:あみれもん