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吊り橋効果

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親友の下宿。
いつものようにつらつらと飲み、半ばわざと終電を逃し泊り込んだ部屋。
客用の布団の上、寝返りをうとうとしてアリスは急激に意識を浮上させた。
― 動けへん・・・!!!か・・・金縛り?! ―
これまで一度たりとも金縛りの経験のないアリスは、半分ほど喜びながら、目を開けそして絶句した。
目の前にあったのは親友の顔。
「な・・・・?!」
端正な顔をした友人が自分を見下ろしている。
咄嗟に反応が出来ず、とりあえず金縛りは・・・っと自分の状況を確認しようと首をめぐらせる。
すると、状況が少し分かった。
自分の両手は、親友の手にがっちりと布団に縫いとめられている。
足のほうは、上に被せた布団を火村が膝で踏んでいることによって動けなくなっている。
つまり、仰向けに寝ているアリスを、火村が四つん這いになって押さえつけているという状況。
― 金縛りやないんは・・・納得したけど・・・ ―
「なんなんや?この状況は」
混乱。
一番最初に浮かんだのは、自分の寝相が余りにひどく、彼が押さえつけているということだった。
が、それは違うと火村の顔を見て思う。
やたらと楽しそうな顔。
いつもの仏頂面からは考えられない。
ものすごい上機嫌だと分かる顔。
「・・・なん・・・や?」
嫌な予感。
もう一度聞くと、にっこりと火村が微笑み、アリスは本当に背筋に震えが走った。
そして、同時に妙に心臓の音がバクバクと煩く聞こえた。
「さぁ、なんだと思う?」
にやにやと笑う顔は、元が整った顔だけに、妙に色気がある。
アリスは柄になく焦った。
なにを親友相手に鼓動を高めなきゃいけないんだ・・・だが、そう思えば思うほど、妙に意識し、顔が火照ってくるのがわかった。
いや、顔どころが、全身がだんだん熱くなる。
そう、分かってはいたが、この男は容姿端麗で、しかも、声優顔負けのいい声をしているのだ。
重低音は、腹に響く。
これはなんとかしなくてはと、口を開こうとするが、焦った今の状態では声が裏返りそうでなかなか声が出せない。
その様子をにやにやと笑いながら見下ろす火村。
「もしかしなくても、緊張してるか?」
「し・・・してへんわ!あ、あほ!」
言葉では否定していても、此処までどもっていては肯定したも同然、ますます顔を赤くするアリスと、耐えられないというようにのどの奥で笑う火村。
灯りを落とした部屋、表情くらいはわかっても、顔色まではわからないはず・・・だが、火村は確実に自分の顔色まで分かっているとアリスは思った。
そして、その火村を払いのけようとするが、基礎体力の違いか腕はあがらない。
「・・・くぬ・・・」
気合いを入れてみるが、やはり手首から先が上がるだけで、腕自体は1センチたりとも浮かない。
「なぁ、アリス」
そのアリスを余裕で押さえ、火村は口を開いた。
「なんや?」
「吊り橋効果って知ってるか?」
「吊り橋・・・・」
その言葉に、アリスは無駄な努力を一切やめ、きょとんと目の前の男の顔を見た。
吊り橋効果:男女の二人が吊り橋のような足場の安定しない場所にいる際、危険へのドキドキを異性への恋のドキドキと勘違いすること・・・・。
「・・・・・!!!!!!!」
体温が2度ほどは確実に上がった。
「あ・・・あ・・・あほか!何、あほなこというとるんや!」
アリスが正確に自分の言った意味を分かったらしいと、火村は肩を震わせて笑った。
「あ・・・あんな!それで、もし俺が恋に落ちてしもたら、洒落にならんやろ!」
唾を吐きつける勢いで言ったアリスに、火村は、
「洒落じゃねぇから大丈夫だろ」
悪びれずに言う。
「は・・・?しゃ・・・え?・・・洒落やない・・・?」
「そ。」
「・・・・・・!!!!!!!は・・・・!!!はなっ・・・・!!!!!」
アリスの悲鳴が途中で途切れたのは・・・・無論、火村のせいではあるが、手段については想像にお任せすることにする。
作品名:吊り橋効果 作家名:あみれもん