願い
貴方は、今どこで何をしていますか?
兄さん…………。
また、あの夢を見た。
兄さんが誰かに連れられて行く夢。
後ろ姿からわかる程に兄さんは傷ついていた。
頼りない足どりで歩いて……、俺の方を見た。
そして……すまなそうな顔をして、笑った。
自分のアイアンクロスを、闘いの血がこびりついたアイアンクロスを、俺に渡したんだ。
「兄さん………っ!兄さん!」
叫んでも届かない。
今にも消えそうな背中。
透き通る銀色の髪と、赤い目。
「どうすれば、ヴェストは助かるんだ?」
奴にそう聞いた声。
「そんなの簡単だよ。君が僕の言うことを聞いてくれればいいんだよ」
あんなに残酷な言葉は聞いたことが無かった。
あんなに残酷な笑顔は見たことが無かった。
「兄さん………!やめてくれ。俺なんてどうでもいいからそいつの言うことなんか聞かないでくれ!」
精一杯叫んだ。喉が裂ける位に。
それでも、
「いいぜ。お前の言う通りにしてやる。……それが、ヴェストの幸せなら」
兄さんは、そう言ったんだ。
でも………、兄さん、貴方が居ない幸せなんて意味がない。
兄さんが苦しんで………それがわかっているのに、幸せなはずがない。
「兄さん………」
「じゃあな。ヴェスト」
何もできなかった。
兄さん。
また貴方と暮らしたい。
一人きりの暮らしに堪えられない俺がいるんだ。
壁一面の淋しい落書きを眺めながら思う。
壁の鉄条網でいくら指を傷つけても貴方に会いたいと思う。
貴方もそう思っているのだろうか?
いつか、この壁が崩れ去る。
その日まで。
貴方を待っている。
end