あおぞら
「静雄?お前もう昼飯食ったのか?」
昼休み、弁当を持って屋上にあがってきた門田は、牛乳片手に菓子を食べている静雄を見つけて声をかけた。
昼休みが始まってまだそう経っていないというのに、よっぽど腹が減っていたのだろうか。隣に腰をおろしながら静雄の顔を伺い見ると、あからさまに不機嫌が滲み出ていて、これは何かあったなと門田は思わず苦笑する。
「何かあったのか?」
「…ああ、臨也の野郎がうぜえことしやがってよ」
「また臨也かよ」
聞けば、静雄は今日弁当を忘れ、購買で買おうとしたところを臨也に邪魔されたらしい。パンやおにぎりは臨也の根回しのせいで静雄が買う間もなく即売り切れだったそうだ。
「全くとんでもねえことするなあ、あいつも…だから菓子食ってたのか」
「これしかなかったし、まあ、食わねえよりはマシだからな…ったく臨也の野郎…今度顔見たらマジでぶっ殺す」
ポッキーをかじりながら不穏なことをいう静雄に門田は思わず頬が緩みかける。が、気づいて慌てて引き締めた。静雄が怒るのは当然のことだ、悪気はないとはいえ、逆撫でするようなことがあってはいけない。
「…ほら、ひとつやるよ」
門田は自分のもってきたおにぎりをひとつ、静雄に差し出した。静雄はきょとんとした顔で門田の顔と差し出されたおにぎりを交互に見比べている。
「自分で握ったのだから見てくれ悪いけどふたつあるし、そんなんじゃ午後もたねえだろうからよ。遠慮すんなよ」
半ば強引に押しつけると、静雄は大人しく受け取った。それを見て門田はふっと口元を緩ませ、ついでとばかりに適当におかずを詰め込んである弁当箱も真ん中に置いて、食えよと促す。
「門田…本当にいいのかよ」
「いいって、遠慮すんな」
「けどよ」
受け取りはしたものの、静雄はなかなか食べようとしない。気遣わなくていいのに、と門田は思ったがたぶん一方的なのが気になるのだろう。それならばこちらも何かをもらえば少し気が紛れるのではないだろうか。
「静雄、じゃあよ、お前のそれくれないか」
「…ポッキー?」
「そう」
視線で示すと、ああどうぞどうぞと言わんばかりの態度で静雄が残りのポッキーすべてを差し出した。
「一本でいいよ」
「いや、全部やるよ」
「いや、とりあえず一本くれ」
「ん?ああ」
静雄がポッキーを一本取って、差し出す。門田はそれを手で受け取らず、あえて、口で受け取った。そのままサクサクと最後まで食べ進める。
「おっおい何だよ門田」
「いや、お前がこうやって食べさせてくれるなら、残り全部もらってもいいなと思って」
ニッと笑うと、静雄は一瞬ポカンとしたが、すぐにバカじゃねえのかと、顔を赤くして声を荒げる。ふーふーと肩で息をする静雄をなんとか落ち着けて、門田はおにぎりをかじり始めた。
「ほら、さっさと飯くわねえと昼寝する時間なくなるぞ」
「あ?ああ、もうこんな時間かよ」
時計を確認し大人しくおにぎりをかじりはじめた静雄を見て、門田はふう、と一息つく。おかずもきっちり半分にしてやると、静雄はポッキーを箸にして食べた。
「門田、…ありがとな」
「いや、気にすんな」
「お前のおかげで命拾いしたわ」
「大袈裟だな」
「おにぎり、ちょっと変な形だけどな」
「うるせえほっとけ」
ふたりして声をあげて笑う。
その後は抜けるような青空の下でふたり、並んで寝息をたてた。