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【腐向け】僕はただ、君が好きなだけ。【墺瑞】

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甘い香りが鼻腔をくすぐる。
このチョコレート菓子は有名な、オーストリア産のものだ。


「どうですか?作るのに時間がかかったのですよ」

優雅に紅茶を飲む青年ローデリヒは、目の前で菓子を食べている愛しい想い人に微笑みかける。

「うん・・・・悪くはない、と思う」

ローデリヒの想い人バッシュは菓子の感想は素っ気無いが、表情は美味なものに対しての素直な想いを表している。
その感想に満足したのかローデリヒは、作った甲斐があります、と笑顔を見せる。


ふとローデリヒは窓の外に目をやる。

「・・・・良い天気ですね」

暖かな日差しが外から差し込み、気持ちの良い暖かさからか眠気が襲ってくる。
うららかな昼下がり、意識が徐々に遠のいていく。






僕はただ、君が好きなだけ。






いつから自分達は仲が悪くなったのだろう。



今は大分彼も警戒せずに我が家でこのようにゆったりとお茶をするぐらいは良くなったのだが。

仲が悪くなった原因は自分だ。紛れもなく。



戦火を交えた国同士の争い。
荒れ果てる土地。建造物は跡形もなく消え去った。
民が流した涙、兵が流した血は拭うことが出来ずにこびり付いたまま。
そんな環境に囲まれていたせいか己の考えは180度変わってしまった。

自分の土地を豊かにしたい
周りの国に負けたくない
民を、兵も傷つけない

そして彼のことも-------------


彼のことを守りたくて、他の国なんかに彼を渡したくなくて、そう思った行動だった。
そう、当時の自分の中には身勝手な愛情表現しかなかった。

侵略して自分の領土にしてしまえば彼を守ることができる。
手元に置いて二人で過ごすことができる。


しかし彼はそれを望まなかった。


望まない薄っぺらい平安を前に彼は、彼自身の誇りに懸けて刃を翳した。
小さな頃からずっと一緒だった私に向けて。

幼馴染に刃を向けるとは彼自身辛かっただろうに。
取り返しが出来ない愚かな事を私はしてしまった。




今思うと強くて美しい彼は望まないと判断できるのに。

私は誰よりも彼を理解し、愛していたと思っていた。
醜い、汚い自尊心だ。






私のことを恨むべきなのに彼は目の前にいる。
しかも私が作った菓子を美味しそうに食べている。

嗚呼、彼の優しさに心が締め付けられる。
きっと彼は分かっているのだろう。

自分に対する裏切り行為は本当のローデリヒがすることでは無い、と。


彼のほうがよっぽど大人ではないか。
全てのことを水に流したわけではないが、今は私の目の前にいて微笑みかけてくれる。


美しい。
彼の心が、微笑みが、太陽の光を受けて輝く金の髪も、全てが。



愚かな罪人の私には彼を抱きしめる権利はないのだろうか。
愛しい人を強く抱きしめて過ちを謝ることすら許されないのか。





私は待ちましょう
私が彼の横に並ぶことが相応しくなるまで






「・・・・・・・・おいローデリヒ!!聞いておるか!!我輩の話を!!」

ぱちりとローデリヒの目が開いた。
紫色の目は微かに潤んでいる。

「ああ・・・私は寝てしまったようですね
昼下がりの暖かさはどうも気持ちが良くて」

ローデリヒはいつの間にか夢の世界に行ってしまったようだ。
少し目を擦ると青年は椅子に座りなおした。


夢の内容は覚えていない。
でもなにか懐かしい雰囲気だった。
ローデリヒは思いだそうとしたのだが思いだすことが出来ない。


目の前の想い人は出された菓子を全て食べきったのか、紅茶を飲んでいる。

紅茶も美味なのだろうが、顔は不満を主張している。

そして紅茶を飲み終わりバッシュはカップを机の上にコツリ、と置く。


「貴様は客人が目の前にいるというのに、いつも寝ておるのか?」


無用心だ、バッシュは口を尖らせる。

ローデリヒはそれは貴方の前だけですよ、と言いかけて咄嗟に飲み込む。

プライドの高い彼のことだ。
「馬鹿にするではない!!!」と怒り狂うだろう。


「すみません。今度から気をつけることとしましょう」


やんわりと謝ると彼も満足したようだ。

それでよい。
椅子から立ち上がりバッシュは小さい子供を褒めるようにローデリヒの髪をくしゃりと撫でる。

ローデリヒの髪に触れるのは細く白く、でもしっかりとした戦士の指で。



嗚呼、やはり彼には勝てれません。



ローデリヒは自嘲気味に笑うと、すっかり冷えてしまった紅茶に手を伸ばす。




(私とあなたの道はいつ交わるのでしょうか)