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神谷 夏流
神谷 夏流
novelistID. 17932
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リューシスティック

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仔犬を買った。
黒い毛色をした仔犬。

買ったばかりの頃は栄養が足りないせいで骨の浮き出ていた躯も、ここに来てから与えられる十分な食事と休養、適度な運動の賜物で本来の美しさを取り戻しつつあった。
所々、欠けてひび割れていた爪ももうすぐ生え変わるころだ。
生え変わったら専用の鑢を買ってやろう。
白くて長い指と、今は欠けてしまっているが形のいい爪。
仔犬を形成するパーツで好きなものの一つだ。


帰宅してすぐに仔犬の待つ部屋に向かった。
暖炉の火でほどよく暖められた広いリビングの中央。
お気に入りのソファに寝そべった仔犬に手を伸べれば、主人の帰宅を喜びスリスリと頬を擦り寄せてくる。
ぼさぼさだった被毛もきれいに整えられて、撫でた手の指通りも気持ちいい。
そのまま耳の後ろや項を擽ってやれば仔犬も気持ちよさに小さく鼻を鳴らす。

「何かいい事でもありました?」
「なんで?」
うつ伏せに寝そべったまま見上げてくるので、自然と上目遣いになっている。
「だって…」

眼の色。
仔犬は他ではあまり見ない眼色を持っていた。本人曰く生まれつきらしいその紅眼は、感情が高まるといつもより紅黒く染まる。
今その眼は濡れたように艶めいていた。
きっとそこから流れる涙を舐めれば葡萄酒の味がするに違いない。






「…そう言えば、彼の軍が格下少数の敵軍を相手に大敗をきしたそうです」
「ふぅーん」
興味なさそうな返事をしながら、項から頬に戻ってきた主人の指先をぺろりと舐める。

「何かしました?」

ありえない敗北の仕方。
用心深い彼らしく、敵軍の3倍近い軍を率いて討伐に赴いていた。しかし周到に張り巡らされた敵軍の罠に面白いよう嵌り、あっとゆうまに壊滅状態に追い込まれた。
生き残った者は瀕死の者も含め、全て敵国の捕虜として連行された。
かろうじて逃げ延びた軍を率いた大将も、国に戻ると治療を受けるどころかすぐに幽閉され、直後、彼の一族と共に国民や国に残っていた自軍の目の前で凄惨に処刑されている。
いまでも彼らの首は処刑台の下に晒されたままだ。
いわゆる見せしめ。
ありえない死に方。
どんなに作戦を失敗したからといってあんなに早く処刑が遂行される訳がない。
それも数々の歴戦の持ち主だった大将位をだ。
―――――どのような戦歴だったかは別として。


「別にゴシュジンサマが気にすることじゃないと思うけどね」
「っう……」
自分の事以外に意識を向ける主人が気に入らず、カリっと自分の唾液に湿ったところに歯を立てた。

「そんなことより――――――ねぇ…」

のそりと身を起こした仔犬が腰に腕を廻してくる。
その重みに思わずソファに倒されてしまった。
仔犬がよじ登ってくる。
鼻先を首筋に押し当て、スンスンと鼻を鳴らし匂いをかいだり舐めてみたり甘噛みしてみたり。
くすぐったさに首を竦めると濡れた紅眼を嬉しげに細める。

「かまってよ」


自分よりも躯の大きな仔犬。
力だって主人の僕よりも強い。

綺麗な毛並みの自慢の犬は自分にしか懐かない。
主人である僕にしか。


作品名:リューシスティック 作家名:神谷 夏流