つぶつぶいちごあじ
呟きながらテーブルの上にひとつ、またひとつと積み上げていくのはとある菓子の箱。
日付にちなんで、特売、の文字と共に並んでいたそれを見たときに、帝人の頭に真っ先に浮かんだのは甘いものが好きな恋人の顔だ。
思わず沢山買ってきてしまったけれど、静雄さんなんて言うかなあ。
そう思いながら縦に長い箱をぐらぐらさせながら三つ積み重ねたところで、ガチャリと錠の外れる音が聞こえた。
「静雄さん!」
「帝人、先にメシ食ってろって―――」
おかえりなさい、と嬉しそうに笑いかける帝人の手元からぽろぽろと零れ落ちる箱に、静雄は言いかけていた言葉を止めた。
「…なんだそれ」
「ポッキーですよ?」
プリッツもあります! そう言って次々と並べられる箱に、静雄は首を傾げる。
「どうしたんだ、こんなに沢山」
「?知らないんですか?」
今日はポッキーとプリッツの日なんですよ。答えながら帝人は箱のひとつを開け、中身を取り出す。
「静雄さんと一緒に食べたいな、と思って。買ってきちゃいました」
「……っ!」
そう言ってはい、と差し出された一本に、静雄は顔を赤らめながらも無言で齧りつく。
そんな静雄の様子を嬉しそうに見つめた後、帝人は自分の口にもポッキーを運ぶ。
「あ、そうだ」
ぽりぽりと小動物めいた仕草で咀嚼しながら、帝人はぱちりと目を瞬かせて、静雄を見上げて言った。
「ポッキーゲームでもやってみますか?……なーんて」
「ぽっきーげーむ…?」
なんだそれ、と対する静雄は心底不思議そうに首を傾げる。
「え、………」
なんというか、静雄さんってこういう世事にもの凄く疎いよね。まあそんなところも可愛いのだけど。
思わずくすりと口元を綻ばせてしまった帝人に目敏く気づいた静雄が、拗ねたようにくちびるを尖らせる。
「…知らなくて悪かったな」
「そんなことないですよ?」
ただ、可愛いなと思って……という言葉は飲み込んで、帝人はにこ、と微笑んだ。
まだどこか納得しない表情のまま、静雄は二三本纏めて口に含む。
「で、どうやってやるんだ?」
「はい?」
「だから、その、ポッキーゲーム?ってやつ」
ぼりぼりと音を立ててポッキーを噛み砕きながらそう訊ねられて、帝人は思いがけずぴしりと固まった。
「……ええと、」
期待に満ちた瞳でじっと見つめられて、帝人は困ったように視線を彷徨わせる。
くるりと瞳を回した後にちらり、と一瞥するとサングラスを外した素のままの瞳が、相変わらずじっとこちらを見つめていた。
「あのですね、」
「ん」
……改めて人に説明するとなると凄く恥ずかしいな、コレ。
頬が温度を上げていくのを感じつつ、努めて動揺しないようにしながら、帝人はポッキーを一本手にして口を開いた。
「まず、僕がポッキーを咥えます」
「おう」
「で、静雄さんが反対側を咥えてですね…」
「?!」
「……お互いに両側から齧っていって、どこまで折れずにいけるか、っていう」
ゲームなんですけど……という、後半部分はもごもごと口の中で不明瞭に呟かれることとなった。
頬どころかもう耳まで熱い。静雄が何も返さないこともあって、落ち着かない気持ちのまま帝人は面を伏せる。
咥えたままのポッキーをどうするべきかと思いつつ、今更食べることも口から外すことも躊躇われてそのままにしていると。不意に、頬に手が添えられた。
え?と伏せていた顔を上げる前に、頤を捕まれ、くい、と上を向かされる。
さくさくと、響く音に気を取られている間に、思いの外真剣な表情を浮かべた顔は目の前どころか鼻先が触れるどころかくちびるが―――
あまい味と感触を残して離れてくそれをぼんやりと眺める帝人と同じくらいに顔を赤らめた静雄が、今は外している筈のサングラスのブリッジを上げるような仕草をしつつ言う。
「……こういうこと、だろ」
赤い果実の描かれた箱が、帝人の手からぽろりと落ちた。