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【擬人化4新刊】光をあつめる生活【サンプル】

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「ありゃ、お姫さん」
「スペインやないの。一体どうしたん、こんな時間に?」
 声をかけられた娘、イサベルは、心底驚いた、といった風に目を丸くした。
「それはこっちの台詞ですわぁ。あきまへんで、婚礼間近の花嫁はんが、こんな時間に一人でフラフラと」
 少年の態に似合わぬ、口喧しい老女中のような口調で、スペインは言う。カスティーリャ国王女・イサベルは、アラゴン国王子・フェルナンドとの婚礼を当日に控えていた。昼にはトレド大司教の下、式が行われる予定である。
 王女は、栗色をした豊かな髪の毛先を玩びながら、あぁ、とも、うん、ともつかない曖昧な言葉を返した。
「なんや、目が冴えるっちゅうか、眠られへんくて……」
「あぁ、緊張してはるんやね。でも、なんにも心配することなんて、あらァしまへん」
 イサベルを安心させようと、スペインは緩く笑まい、肩に手を置く。
「ええお人やないですか、フェルナンドはんは。なにしろ、お姫さんが選びはった男はんや。……それに、アラゴンと結ぶことは、カスティーリャのお国にとっても、ええことなんと違いますの」
「そうや、その通りや! ……でも、」
 声付きが、急に沈んだ。スペインが首を傾げて続きを促すと、イサベルはぼそり、と呟く。
「……兄さんが、祝福してくれへん……」


※※※


「今帰ったでー」
 大きく響いたスペインの声に、ロマーノは慌てて玄関の方へと駆け出した。
「スペイン!」
「おー、しばらく見ん間に大きゅうなったなぁ、ロマーノ!」
 荷物や外套を使用人に手渡しつつ、スペインは笑う。スペインの顔を見た瞬間、訳もなくロマーノはほっとなった。やはり、家には主人が居るのがあるべき姿だ、と思う。
「そうや。ロマ、これお土産」
 スペインは胸元のポケットから、白っぽい物を出してロマーノに手渡した。
 白い手巾に、何か固い物が包まれている。
「あんま素手でベタベタ触ったらあかんよ。手の脂で曇ってまうからなぁ」
 そっと布を剥ぐと、中からは動物を象った金細工が出てきた。窓から差す陽光を撥ねてぴかぴかしている。
「……馬?」
 ロマーノは軽く首を傾げた。大体の形は馬に似ているが、馬にしては、足が短い気がする。
「なんか、ラマだかリャマだかとかいう生き物らしいで。向うには仰山おったわ」
「ふーん」
 リャマとやらの細工物をしげしげと眺める。どんな生き物なのか。何を食べるのだろう。足は速いのかしら……。
 遠い新大陸に思いを馳せるロマーノの様子に、スペインは満足げに笑った。
「ちょっとおもろいやろ? 他にも色々あるから、後で届けさすな」
 どれもこれも金ピカやから、見たらきっと吃驚すんで! と得意げに続けたスペインを、ロマーノは見上げる。
「そんなにドレもコレも金なのかよ。貴重なんじゃねーの、金なんだったら」
 スペインは、うん、と少し考えるように間を置いて、頷いた。
「そうなんやけど、新大陸におるインディオの偉い奴が、色んなモンよぉけくれよンねん」
「? インディオの奴らは、金が大事じゃないのか? なんで、突然来た余所者にくれるんだよ」


※※※


「あっ、フランス! なんしに来たん、ロマーノは渡さへんで!」
 フランスの姿を認めた瞬間、くっと肩に力の入ったスペインに、フランスは慌てて掌と首を横に振る。
「違う違う、南イタリアは欲しいけど、今日は別件。ウチ最近ずっと天気悪いから、単に気晴らしに遊びに来ただけだって」
「ホンマにぃ?」
 しばらく疑わしげにフランスを眺めていたが、たまたま帯刀していなかったのが幸いしたのか、どうにか納得したようだった。
「でも、それやったらええとこに来たなぁ。ちょうど今日、異端裁判の日ィやねん。もう裁判自体は終わってもうたけど、まだ処刑には間に合うんちゃうかな。今回は結構盛大にやってるから、見物してったらええわ」
 久しく耳にしていなかった単語の響きに、一瞬目を見張り、聞き間違いかと思いなおす、が。
「最近は、マラーノもやけど、ルター派とか言うのがちらほら目につくようになってきた感じやんな〜。どっちにしろ、けったいなこっちゃで」
 肩を竦め、軽く溜息をついてみせるスペイン。その、あまりに軽々しい物言いに、フランスはぎょっとなった。
「おいおい、スペイン。もう十六世紀なんだよ? 今どき、異端審問って時代でもないんじゃないか?」
 フランスとて、異端審問の歴史を持たぬ訳ではない。事実、彼の記憶にいまだ苦い影を落としているオルレアンの乙女は異端裁判の火刑によりその命を落としている。であるが故に、拷問を含む苛烈な取り調べや異端者に処される刑の残酷さについても重々承知していた。知っているからこそ、苦言を呈することも出来る。
 内政への干渉なのかと、気分を害されることは覚悟していた。が、返ってきたのは、へー、という何とも気の抜けた応答であった。
「ええなぁ、フランスのトコは、もう異端とかおらんのかぁ。俺ン家、怪しいコンベルソやモリスコはまだゴロゴロおるし、最近はプロテスタンテなんてうざったいのも出てきよるし……」


※※※


 一週間ほど、経っただろうか。外の様子が分からず、時間の感覚が既に麻痺しているスペインには昼夜さえわからない。腕は荒縄で戒められ、首には鎖が繋がれている。家畜のようで中々に屈辱的だったが、それにも増して堪え難いのが、不定期に与えられる食事だった。勿論スペインとて、長期の船旅において捕虜へ与えられる食事など、期待していた訳では全くない。が、供されたのは、スペインの想像を遥かに越えるものだった。食事、と呼ぶ事すら躊躇われる。ぐちゃぐちゃとした生臭い、得体の知れぬオートミール様のもの、焦げ臭いのに湿っぽい謎のビスケット……。家畜だって、もう少しマシなものを食べているだろう。他の乗組員たちは無事にしているだろうか、と回らない頭でつらつら考える。
 その時、ギ、と軋んだ音を立てて扉が開いた。一体何事だろう、またあのクソ不味い食事か、あぁ今は昼なのか、等、様々なことが瞬時に巡る。おっくうながらも顔を向けると、扉を開いた相手は逆光でシルエットしか見えなかった。随分と衣服が豪奢なようだから、船長か何かだろうか? よく見ようと目を眇めれば、そこに居たのは、スペインと同じく国の化身、イギリスであった。
「身分のわからねえ奴がいるって言うから何者かと思ったら、スペインじゃねえか。……連中、テメエの扱いを決めあぐねて困ってンぜ」
 くくっ、と喉の奥でイギリスが笑う。
「自分っ、なンで此処に……あぁ、」
 スペインは顔を歪める。
「ここ最近の、裏で手ェ回しとったん、やっぱオドレやったんか」