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目撃者・近藤昭男の些細な事件簿

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どうも、警視庁捜査一課弐係・係長近藤昭男でございます。
 警視庁捜査一課といいますと、強行犯等、まあ殺人とか強盗とかミステリにありそうな案件を扱う課でして、「したっけ、トツガワ警部とかけ?」などと同級生に聞かれるのですが、ワタシが係長を勤める弐係はあんなに熱心に捜査する部署ではございません。実のところ捜査一課はいくつかの係に分かれており、一番ではなく二番、でもなく「弐」というのがまあ肝心なところで、弐係は主にお宮入りした事件ファイルの整理及び管理が主な業務、必要とあれば、捜査をするということです。といっても、ワタシなんぞはここ数年捜査令状なぞ目にしておらず、実質、お宮入りなさった事件の被害者の方の、苦情係でございます。昨年の事件発生数は膨大であり、予算・人員には限りあるので全てには対応するのは事実上不可能である、なあなあにして済ませてしまおうということですね。あ、内部の人間がこんなことを言ってはいけませんかね。
 さてさて、ワタシは定時無残業を心がけておりまして、業務終了の後には、毎日趣味の習い事をしております。最近、いちばん熱心に取り組んでおります日舞はまもなく発表会が行われることになっておりまして、五時十五分きっかりにワタシは仕事を終えてイソイソと日比谷線・霞ヶ関駅へと向かっておりました。
 さてさてホーム内で電車を待っておりますと、何やらぎゃあぎゃあと騒がしい様子で、人がざわざわと集まっております。まあこれでも警察官の端くれでございますので、何かありましたら110番しなきゃいけません。え、ワタシが逮捕しろって? いやいやいや、ワタシはてっきり体力仕事には向かないもので。現行犯については、一般人でも逮捕できるって御存知でしたかでしょうか。ワタシは最近とみにしょぼつく目を細めました。
 ぎゃあぎゃあと言い合うふたりの男女――などと申しますと、すわ痴情の縺れかあるいはこのご時世ですので痴漢騒ぎなどを連想されるかと思いましたが、そのような諍いではありませんでした。
 声の主にどこか聞き覚えがあるなあ…と首を傾げておりますと、案の定顔見知りでございました。同じ警察官――と申してよいのか、彼らは、警視庁警備局――いわゆる公安の方々でした。
 おふたりが所属しておられますのは警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係でございまして、かつて弐係でワタシの上司をなさっておりました野々村元警部が、定年後嘱託職員として係長をなさっている部署でございます。未詳事件――ようは超常的な能力を用いたと思われる犯罪、つまりはよくわからん事件を扱う部署なのです。とは申せ、弐係同様、被害者の方の苦情係と言ったところです。瀬文さんと当麻さんは、野々村係長の部下でございます。先日、ちょっとした事件で協力をお願いしたのです。
 瀬文さんは、坊主頭に細身の体型でございまして、スーツ姿であるのにまるで軍人の如く姿勢正しく一見カタギには見えませんし、当麻さんの方はまあ、ぱっと見は、化粧っ気もなく地味でスレンダーな女性なだけなのですが、赤いカートをずるずるひきずる様子や態度がマトモでない雰囲気をかもしだしているのです。まあふたりともぶっちゃけ変人なのです。ワタシもつくづく変人に縁の多い警官人生です。
 さてその訳ありげな、男女が何に揉めておられるかと言いますと――少し会話を聞いて見ましょう。それにしても瀬文さんの声は大きすぎますね。


「てめぇ、その汚ェカートで何度俺を退けば気が済むんだよ」
「気のせいじゃないっすかぁ?」
「気のせいじゃねぇよ。その車輪の泥が俺の靴についてんだよ、証拠が! はっきりと!」
「ん、もー、瀬文さんがカートの進路を邪魔したんじゃないですかあ?」
「そっちのが進路妨害だろぉうが」
「こんなとこで大きな声出さないで下さいよぉ~、前の車両に乗らないと乗換不便なんっすよ」
「って、またっ、てめ、ワザと退いただろ。てかぶつけただろ。痛いんだよ痣になんだよッ」
「なんのことですかぁ?」
「あーやーまーれ」
「はいはいすいませんでしたねぇ」
「てめッ……謝りゃいいってモンじゃねぇんだよ!?」
「謝れって言ったの瀬文さんじゃないですか。何、難癖つけてんですか。その大声であれこれいうの、恫喝っすよ」
「おまえはこういえばああいう」
「瀬文さんこそ、ちっちぇえことでイチャモンつけないでください。私は普通にカートひいてただけです。瀬文さんの方こそ、当たり屋じゃないですかぁ?」
「てめ、人身事故として警察呼んでやろうか」
「事故にすんなら診断書なり用意してくださいよ。誰も痣のひとつやふたつになんか診断書書いてくれませんよね? あー、ホント、バカらし」
「あぁ?」
「好きにしりゃあいいじゃないっすか。ああ、めんどくさい…… あ、撲った。撲ちましたね、思い切り、痛ぁい痛ぁい。交通事故の上に暴力ふるわれました~暴行罪ですう、逮捕してやるぅ」
「診断書でも書いてくんだな」
「わあん、先輩がいじめるぅ~ パワハラですぅ~」
「パワハラってのは上司がすんだよ」
「あ、そうなんすか」


 ――と、まあ、こんな感じでした。テレビでは放送できないような、過激な文言もありましたがここには記載しません。おふたりはこんな調子でぎゃいぎゃい騒ぎながら、ホームにすべりこんできた電車に乗りこんでいきました。どうやら捜査に行かれるようですね。彼らを遠巻きに眺めていた方々もそれぞれ電車の中に吸い込まれて行きました。ワタシはといえば、呆気にとられてその電車を見送りました。ワタシも乗るはずの車両でした。日舞のお稽古には、少々遅刻してしまい、先生には「たるんどますね」などと、こってり搾られました。以上、近藤でございました。