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大型犬と帝人

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静雄が顔を上げてやたら爽やかな顔をしている。なのに目はあの時の捕食者のようだった。ハンターだった。帝人はこの時点で自分の身の終了を感じた。



「お前が俺を好きじゃなくても、好きでいても。次はお前の方から俺を好きだって言わせてみせっから」



言葉はまるで少女漫画のようであったが、語る目があまりにも己を狙っていたから帝人は体を震わせる。おかしい。反論を認められていない。一方的な獲物宣言に等しい告白はある意味で帝人の心臓の脈拍数を高める。恋をされているのに、穏やかな気分には到底なり得ない。


「やっと俺は気づけたんだ。後は、お前が俺を好きになるだけだ」


「…あの、静雄さん?ちょっと僕の話を」


「ああ、聞くさ。なあ、お前の家上がって良いか?」



にこり、と池袋最強には思えない笑顔を出して静雄は帝人に微笑む。彼の思考はきっと帝人だけでなく誰にも読めない。手を引かれて抱き上げられる。近いその顔の距離に、帝人は顔を背ける。それに静かに眉を寄せた静雄が一瞬で唇を奪って、帝人の口内を蹂躙した。普段ならあまりに横暴なその態度に怒鳴ろうとするのだが、もうその気さえ帝人にはなかった。


「…その好きって」

「今までは守りたいだったんだがな。気づいたら犯したいだった」


限りなく危険である。



「大丈夫だ。我慢は出来るだけする。多分」

「なんて曖昧な!!」

「お前が早く俺の事好きになってくれたら、我慢しなくていいんだけどな」

「いやあのだからですね。静雄さんまず僕の話を」

「分かった分かった。早く家に入りたいだな?…そうだな、早くふたりきりになろう」

「ほんと勘弁してください!誰か!き、紀田くーん!園原さん!!」

「帝人は照れ屋だな」

「もはや人の話を聞こうとする姿勢が見られないのはなぜなんでしょうか」



ただ分かったことがある。
彼は大型犬などではない。
忠犬でもなく、狂犬でもなく、ましてや駄犬でもない。


平和島静雄は犬科は犬科でも、獲物の喉笛を容易く噛みきって己の血肉にしてしまう狼だと心底理解した。




作品名:大型犬と帝人 作家名:高良