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――――これ以上の絶望が、何処に在る。
それは幸せだとか喜びだとか、そういった綺麗なものだけを掻き集め凝縮された様なものだった。
キラキラと光るそれは眩い色彩を放ちながら存在し、甘美で至福のひと時を自分に齎してくれる。そしてそれは、見ているだけでも銀時を幸せにした。
だから目を細めてじぃと見詰めるだけでも、それはそれで良かったのだ。
確かに本音を云えば、手に入れられたらどんなに良いだろうと何度も思った事もある。欲深いのが人間の性であり、綺麗なものに惹かれるのは至極当然の事だろう。
けれど自分には分不相応にも思えた。
己の手中に収められたらどんなに良いかと心の奥底、暗い部分でそっと呟きながら、それでも手にするには遠すぎた。
だから、一歩引いたところからそっと眺めているだけで良かったのだ。
遠巻きにその断片を享受する。それだけで満ち足りた。
出逢えた事への僥倖を慶び、嘆いた。
それは本当に、誰もが目を惹き、そして銀時自身をも魅了した。
―――それが、手に入った。
なんたる幸運。なんたる思し召しだろうか。
神など信じてはいないが、この時ばかりは心の底から感謝した。
―――そう、だからこその、絶望。
手に入ったと思った。こんな自分でも、手にする事が出来るのだと震える手でそれに触れたのは記憶に新しい。
然しそれが跡形も無く消え失せている。何処を探しても見付からず、綺麗さっぱり彼の目の前から姿を消していた。
困惑し、次いで訪れる激しい怒りとも悲しみともつかぬ衝動。足先から背筋を這い上り、心の臓まで侵す冷やかな熱に指先が細かく震える。
手に入れたと思った。夢にまでみたあの綺麗なものが、この手の中に確かに在ると。漸く触れられると、気が狂う程に切望したあの存在が。
もう、二度と、手に、入らない―――
「テッメ!神楽ァァァァァァァッッ!!!ちょ、おま、ここにあった俺のケーキ、何処にやりやがったァァァ!!!!」
*何か色々御免なさい(笑)