二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

、夜に溶けてきえた

INDEX|1ページ/1ページ|

 

 目を覚ますと、目の前で<わたし>が踞っていた。

 ああ、なんて醜い姿だろう、そうわたしは吐き捨てて、目の前の<わたし>に目をやった。これは、まぎれもない夢であることをわたしはすぐに理解した。これは夢だ。夢以外の何物でもない、これは、夢だ。
 夢の中のもう一人の<わたし>は愛した男に捨てられたと、被害者になることも出来ず、地べたに踞っていた。立ち上がることも出来ないわたしは、ただ、ただ、嗚咽を吐き出すばかりで、言葉にならない声で唸るように、縋るように泣いていた。
 けれど悲しいことに、わたしに縋るものは何ひとつもないものだから、<わたし>はどうすることも出来ないまま、やはり泣いていた。いま、目の前にいる<わたし>は紛れもなく、酷く醜い生き物であった。

「酷い姿じゃあありませんか」

 わたしはそう呟くと、<わたし>は泣くのをやめ、目の前のわたしを睨みつけた。けれど、何も言い返すことが出来ないのか、すぐにまた真っ赤な目から大粒の涙を面白いように零し始めるのだった。
 ぼろぼろぼろぼろ、ああ、一体いつまで泣いているのだろうか、そんなわたしの疑問をよそに、やっぱり<わたし>は泣いている。確かに愛していたのだと、嗚咽と共に吐き出して。
 泣きじゃくり、立ち上がれなくなるほどまで、愛していた男は何処へいったのだ?刀を握り、そのあ、い、し、た、という男に向けたのは何処の誰だったのだろうか?なにからなにまで気にくわなかった。泣いてばかりいる<わたし>に腹が立ってしょうがなかった。
 わたしは泣かなかったから。目の前にいる<わたし>が赦せないのだ。泣いて引き止めることも、途方にくれる時間も、わたしにはなかったのだ。愛していると、もう一言だけでも、そう縋ることも出来なかったのだ。わたしの気持ちを知ってか知らずか、やっぱり目の前の<わたし>は泣いている。愛していただなんて陳腐な言葉を繰り返し吐き出して。
 いつかの<わたし>にふと、わたしはひとつだけ訊ねてみたくなった。たったひとつだけ。今だって理解することの出来ない<あれ>や<それ>を。

 そんな恋に意味はあったのか、とわたしが呟く。目の前の哀れな生き物に。<わたし>は真っ赤な目を伏せて、唇を噛み締める。じわりと滲む赤。嗚咽と共に、確かに、あったのだ、そう言うのだった。

「全く、本当に、バカみたいですね」

抱き寄せたからだは、今にも輪郭を失いそうで、とても脆い物に思えた。わたしは強く強く、その体を抱きしめる。もう一度、自力で立てるように。どんなに時間がたっても、ひとりでまた明日も歩けるように。バカみたいだと、もう一度吐き捨てて。これは夢なのだからと言い聞かせて弱いわたしを抱きしめるのだ。






------------------------------------------
20101109 、夜に溶けてきえた
作品名:、夜に溶けてきえた 作家名:エン