最期を願う
最期を願う
「平助…」
自身を呼ぶ優しい声に誘われるように、まどろんでいた意識が覚醒する。
ゆるゆると、重たい瞼を持ち上げる。
「…ぅ…」
開いた隙間から差し込む外の光は、今まで暗闇に閉ざされていた視界には強烈で、思わず再び目を閉じた。
「あ、起きた…?」
それでも、上から聞こえてくる声の主の姿を求め、もう一度、目をゆっくり開く。
「オハヨ、平助。」
ぼやけた両目が焦点を結んだ先に、彼はいた。
「…しんぱ、っあん…」
寝起きで掠れた声で呼べば、ふ、と柔らかく笑う新八。
「よく寝てたね。」
新八に言われ、此処が自室で、縁側でごろごろしながらひなたぼっこをしていた事を思い出した。
いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。
「あ、れ?新八っつぁん、コレ…」
ふと、自分の腹の上に掛けられていた羽織を見て、傍らに座る新八を見上げる。
自分のものではない、けれどよく見慣れたそれは、新八がいつも羽織っている物で。
「いくら平助でも、こんなとこで腹出して寝てたら風邪引くでショ?」
「…さり気なくバカにしてない?」
「まさか!心配してあげたんだよぉ?」
新八がおどけて見せれば、つられて平助も笑った。
「?平助、寒い?」
胸元まで羽織を引き寄せた平助を見て新八は訊ねる。
「んーん。こーすると、新八っつぁんの匂いがするなーって思って。」
そう言って、羽織の端に鼻を擦り寄せ匂いを嗅ぐ仕草をする平助に「やっぱりバカだ」と新八は呆れて呟く。
「でも…、こんな風に新八っつぁんの傍で、こんな風にして死ねたら…俺は本望だなぁ」
「夢、見てんなョ」
「いーじゃん、夢くらい。夢の中でくらい、幸せに死にたいでしょ?」
そう言って新八を見上げる平助の笑顔は、どこか、寂しそうで。
幸せな最期など、平穏な死など、自分達には無縁だ。
きっと行き着く先は地獄で。
叶う筈も無い夢だと、分かっている。覚悟している。
けれど。
「そうだな…」
夢を見る事くらいは、許されるだろうか。
ふいに、新八に向かって伸ばされた平助の手に、自分のそれを重ねた。
触れた彼の掌は、とても温かかった。