二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

魔法鏡

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

悦史は携帯と眼鏡をズボンのポケットに捩じ込むと、軽い足取りで保健室を出た。みな勉強している中、一人帰る優越感。定期も何もかも教室だけど、線路沿いを歩けばそのうち帰れるだろう。妙に清々しい気持ちだった。昇降口で靴を引っ掻けて、悦史は悠々と正門を出た。守衛ににこやかに挨拶をするのも忘れない。

「さようなら」
「帰るの?」
「調子が悪いので、早退します」
「お大事に。えつっさん」
「あり……」

えっ?

「俺も帰ろうかな」
門に凭れる蘇芳が、包帯を巻いた手をひらりと振った。呆然とする悦史に、体育体育、とぶかぶかジャージの蘇芳が笑う。
帰ろうかと肩を抱いた蘇芳の手を、悦史はぱちんと振り払った。蘇芳が一瞬傷付いた顔をして、それから苦笑。

「ごめんな。流石の俺も体育は抜け出せねえわ。携帯は家に忘れるしさーもー」
散々。蘇芳は大袈裟に肩をすくめた。あんなことがあったと言うのに蘇芳はやっぱりいつも通りで、なんだか悲しかった。悦史は俯いて、唇を噛み締める。気分は一気に下降していった。

「なあ、えつっさん。おれ、ひどいこと言ってもいいかな」
はっと顔を上げた悦史に、蘇芳はにっと笑い掛けて、

「俺さ、やっぱえつっさんとは心中できないよ。他の誰とするとしても、えつっさんとは絶対、無理」
「…………」
「この意味、わかる?」


……意味?そんなもん、

「…ああ、わかったよ。よォく、わかった。お前だってただの男だったんだ。外面だけのただの人間。わかったわかった」
「………ちょっと待ってえつっさん。なんでそうなるの」
「うるせえよ気安く呼んでんじゃねえ!!!!!人間風情がよォ、俺に話し掛けていいわけあんのか!!!!!!!!」

悦史は親の仇でも見るように蘇芳をきつく睨み付けながら、しかし自分の中にまだ冷静な部分があることに気付いていた。その冷静な部分が、自分の中の子供じみた怯えに気付く。悦史は蘇芳を酷く恫喝しておきながら、しかし逃げるように蘇芳の横を擦り抜けようとした。しかし蘇芳は恫喝に竦み上がりながらも、悦史を逃がしはしなかった。
「待って」
「気安く触ってんじゃねえ!!!!!」
「…おちついて」
「だ、れが、落ち着いてねえって????ほっとけよ、うぜーんだよォ!!!!!!!!!!!」
腕を掴む蘇芳の手を、引き剥がそうと悦史は暴れた。しかしどんなに暴れても殴っても引っ掻いても、蘇芳は放してはくれなかった。それどころか悦史は結局、無理矢理に蘇芳の腕の中に閉じ込められてしまう。
暴れ続けていた悦史も、蘇芳の包帯に血が滲んでいるのに気付いてしまうと、もう抵抗できなかった。それ以前に、本気で暴れてなどいなかったのだろう。本気で暴れたなら、悦史がただの人間の蘇芳を振り払えない訳がない。

「えつっさん、…悦史。いいんだよ俺のこと傷付けても。俺は悦史のものなんだから。悦史がしたいなら、悦史は俺にどんな酷いことしたっていい。でも、悦史は駄目。悦史は傷付いちゃ駄目なんだよ。だから俺は悦史と心中できない。前を向いて生きてほしい。悦史が許してくれるなら、俺も一緒に。俺悦史のこと大好きだからさ、自分から傷付こうとしてる悦史は、嫌だ。
……俺、酷いこと言ってるな」

蘇芳は自嘲するように笑うと、ぽんぽんと悦史の背を叩いた。

「俺は汚い人間だから、自己中心的だから、俺は勝手に悦史に理想を押し付けるよ。悦史は誰にも縛られず自分の好きなようにしあわせに生きる。俺が決めた、守らせるよ」
「…蘇芳は、」
「んー?」

悦史は恐る恐る、蘇芳の背に自らの手を回した。

「勝手だ」
「ん。勝手だよ」
「ばかやろう」
「悦史ばかだよ」
「俺のこと振り回すし、俺のこと嫌な気持ちにさせるし、そのくせ、俺の中から出ていかない」
「酷い男だなあ俺も」
「……く、そぉ…………ばかっ!ばかやろう!ばか!!」
「フヒヒ、サーセン……あだっ本気で殴らないで!気持ちよくなっちゃう!!!!!!」
「き!!!も!!!!い!!!!!」

気恥ずかしさだとか嬉しさだとか照れ隠しだとかがない交ぜになって息を切らせる悦史の、目元に蘇芳は口付けて。しかしやはり悦史は、その瞳に映る自分に目を背ける。
…いつかさ。蘇芳の言葉に、悦史は目を背けたまま頷く。

「テレビの雑音は消して、夜にカーテン開けて星を見て、黒い車でドライブして、笑顔で記念写真撮って、目を開けたままキスしよう。いつか」
「……………」
「俺、決めたから。決めたからには守らせる」
蘇芳くんは有言実行がモットーなので。鼻を鳴らして胸を張った蘇芳。それからにっと歯を剥き出して笑い、悦史の背をそっと撫でた。もう言葉はいらない。蘇芳の肩に頭を押し付け背を震わせる悦史を、蘇芳はただ抱いているだけで良かった。



作品名:魔法鏡 作家名:みざき