第X回、夏休み戦争
気に入らない奴がいる
むかつく奴がいる
消えて欲しい奴がいる
顔も合わせたくないのに、毎日合わせないといけないのが腹立たしい
何故ならアイツとは“兄弟”だからだ
さらに親に親戚に赤の他人にさえ、『そっくり』と言われてしまうのだ
顔とかの表面的なものではなく、恐らく性格とか内面的なもの
その点ではまぁ、納得している
だってこの互いに抱く憎い感情も、――好きな、人も、同じなのだから
((あぁ、))
((あんなやつ、はやくいなくなればいいのに!!))
***
――八月の始め、学生も夏休み真っ只中
何処までも続く青空と、眩しいほどの太陽の光が照らしつける時間帯
蝉が忙しなく鳴き声を響かせる空間に、
その二つの声は響いた
「ねぇちょっと君さぁ凄く邪魔なんだけど、どっかいってくれないむしろろ消え去ってしてくれない?」
「は?それはこっちの台詞ですよ、とっとと水分と一緒に蒸発してこの世から消えてください」
声変わり前の二つの声が蝉の鳴声に負けずにコンクリートの道の上で、ある一軒家の玄関の前で言い争いをしている
恐らく中学生ぐらいに思われる背格好、それでいて端整な顔立ちをしている
二人は全く異なっているようで、どこかしら似ていた
――そう、二人は双子だった
正式名称は二卵性双生児、遺伝子的には全く同じではない
その為か二人は見た目は似ておらず、表面だけでは双子とは思われないだろう
しかし、二人は何処までも似ていた
纏う空気、危な気な気質、常軌を逸した性格、そして愛したい存在も
そんな熱で焼けたコンクリートの上にも拘らず、涼しい顔で些か物騒な言葉の応酬をしている二人の間には
きょとん、とした表情で自分の両隣に立つ少年を交互に眺めている幼い子供がいた
小学生低学年ほどに思えるその姿は、小さく口を開いてはまた閉じる
それに気づいた少年の一人が、剣呑な光を孕んだ双眸を細めて、中学生とは思えぬそれで薄く笑った
「ほら、帝人さんが困っているじゃないですか。さっさとその手を離したらどうですか」
「君こそその手を離したらどう?帝人君はこれから俺と遊びに行くんだけど」
「寝言は寝て言って下さい、帝人さんは俺と遊ぶんです」
「………」
「君こそ頭どうかしちゃったんじゃないの。家にさっさと帰って課題でもしたら?」
「あんな子供だましの課題なんて七月中に終わりますよ」
「……ねぇ、いざやにぃ、あおばにぃ」
ぴたり
子供の小さな呼び掛けに、二人の応酬が直ぐに止んだ
そして二対の双眸がばっと子供に向けられる
そんな二人をくりっとした瞳が見返して、もう一回「ねぇねぇ、」と呟いた
「ん?なぁに帝人君、青葉が邪魔?ごめんね直ぐ除けるからちょっとの間我慢しててね」
「すみません帝人さん、臨也はさっさと片付けますから待っていて下さい」
ほぼ同時に言葉が紡がれ後、数拍の沈黙が続く
その瞬間夏真っ盛りだというのに、辺りの空気が五℃は下がった
その場に彼ら以外の人間がいたのなら、その空気を感じていただろう
しかし、二人の話の中心である子供――帝人はというと、そんなことを気にすることもなく
くいっと掴まれた手を引っ張り、口を噤ませた二人を見ながら、帝人はにぱっと笑って幼げの残る声を溢した
「あのね、いざやにぃ、あおばにぃ」
「ぼく、その……ふたりといっしょにプールにいきたい、な」
帝人を珍しく呆けた顔で見つめる二人に、帝人は「ダメ」だと思われたのか、しゅんとした表情で幼顔を俯けさせる
「……だめ、ですか?」
「行こう!」「行きましょう!」
「…いいの?」
「当たり前だろ、」
「帝人さんの頼みですから」
「……」
「ありがとう、いざやにぃあおばにぃ!」
きらきらとした、夏の日差しにも負けないその笑顔
しょうがない、大切な子供の頼みだ
((今日、“も”許してやるよ!))
内心は穏やかではないものの、臨也と青葉は溜息を吐くと、愛しい子供のその小さな手をきゅっと握り直した
(本日も引き分け!)