決闘少年の恋
ゆっくりと顔を離すと、遊戯さんは鋭い目を見開いて驚いている。当たり前だ。オレも今になって、心臓がばくばくしてきた。掌がじんわりと汗ばんでくる。でもまあ、やっちゃったものは仕方ないよな。
あっさり流されるかと思ったけど、遊戯さんは「どういうつもりだ」と訊いてくれたから、オレも覚悟を決めて「好きなんです」と正直に答えた。遊戯さんは、オレがはじめて見る表情で困っていた。こんな顔もするんだなあ、と新しく知る遊戯さんの表情に興奮してしまう。
「あなたを見てるとわくわくが止まらなくなる。声をかけられると心臓が跳ね上がる。ほめられたら天にも昇る気持ちになる。オレ、あなたのことが好きなんです」
「おまえのそれはただの『憧れ』だろう」
遊戯さんは顔つきを厳しくして、もっともらしくオレを諭そうとする。オレは教師にたてつく小生意気な生徒のように反論した。
「『憧れ』と『恋愛』ってどう違うんですか」
「どう違うか、だと・・・・・・?」
遊戯さんは今度こそ困り果てた顔で押し黙った。本気で考え込んでいる。デュエルでもこんな風に長考するこの人は見たことがなかった。この貴重な姿を見ているのも楽しかったけど、放って置かれるのは退屈だった。隙あり、とオレはそっと遊戯さんに顔を近づける。
「いっ」
唇に到達する前に頬を抓られた。「調子に乗るな」と、さすがに二度目は阻止されてしまう。ちぇっ、惜しかったなあ。
これ以上、遊戯さんを困らせるのも忍びなかったので、オレは赤くなった頬を擦りながら、こう提案してみた。
「じゃあ、デュエルで決めませんか? オレが勝ったら、オレの気持ちが本物だって認めてくださいよ」
それに遊戯さんは渋面を一変させて、
「デュエルか。オレは構わないが、おまえはいいのか?」
「どういう意味ですか」
すると、遊戯さんは不敵に笑って「勝つのはオレだぜ」と一言。その格好よさといったら!
オレだって負けませんよ。
そう言わなきゃいけなかったのに、オレは不覚にも言葉が出てこなかった。ほらな。どこがただの『憧れ』だよ。