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深海魚の存在理由

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海の底みたい。と少女ははじめに思ったのだった。
暗く、音のない場所。
寝台の上で体をまるめるようにして横たわっている男はまるで、光もなく食べるものも少ない深い海の底で息をひそめている生き物のようだった。
白いシャツの背中は動かない。けれど、きっと眠ってはいないのだろう。
眠れないのなら、あんな硬そうなところじゃなくてもっと柔らかいベッドにすればいいんじゃないのかしら、と考える。それか、昼間はちゃんとおひさまに当たった方がいいんじゃないかしら、とも。
すぐ後で、考えたって仕方のないことだけれど。と打ち消した。

深海の魚が、好きこのんで暗いところに棲んでいるのか、長いあいだそこに居たせいでどこにも行けなくなってしまったのか、暗く深いところ以外に居場所がなかったのか、それとも全く別の理由があるのか、なんてことが少女にわかるはずもなかったし、あまり知りたいとも思わなかった。

動かない(動けない)のなら、そこに居るしかないもの。

少女は生まれ育った島を思い出した。
明るい空と海に包まれた檻、少女の生きる場所。
けして出てはいけない、出られない。と知ってからはいつだっていき苦しかったし、それこそ、眠れないと嘆く男のように、どうして鳥みたいに海を越えられないのだろうと、どうしようもないことばかり考えていたような気がする。
あの頃に比べれば、とても暗くて狭い場所に居るけれど、随分と体は軽くなり呼吸は楽になった。もしかしたらわたしは、本当は海の底の生き物なんじゃないかしら、と錯覚するほどに。

少女を島に縛りつけるしるしを断ち切った男がゆっくりと寝がえりをうった。
「…やっぱり眠れない。何か話してくれ」
そうねどこまで話したかしら、と呟きながら少女は考える。

(わたしが飛びたつ日までに、ひとりで眠れるようになりますように)


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お借りしました。
タイトル:星が水没さま(http://isotope.happy888.net/)
表紙イメージ:秋さま(http://p.tl/i/8868955)
作品名:深海魚の存在理由 作家名:すずき