牛乳に相談だ
「夕飯は?」
「いらねえ」
「でも……」
「いらねえもんはいらねえんだよっ」
静雄はそこにある机に手をかけ、ぐっと力を入れたものの、幽の顔を見て、ぎゅうと指に力を込めて震わせた。我慢、したらしい。代わりに足下に転がっているシャツを踏みつけるように地団駄を踏んだ。
「くそくそくそ…っ。気にいらねえ、気にいらねえっ。おれの制服を……!」
中学になってから平和島静雄といえば、すっかり有名になっている。たいていはおびえ、またある者はケンカをふっかけてくる。おそらく今日も、そんなところだろう。暴力が嫌い、にも関わらず、暴力をふるわずにいられない。その矛盾に苦しんで、ぐるぐると兄は回る。兄の足下で、切り裂かれたシャツは更に踏みつけられる。そのぼろぼろの姿は、なぜか兄のように思える。
怒りに震える兄は、同時に泣きそうにも見える。その激しい感情が、幽にはわからない。けれど、苦しんでいる兄がとても、いとおしい。どうしたら、それを伝えることができるのかわからない。
幽にできたのは結局牛乳瓶を渡すことだけで、わずかに兄の表情がやわらぐのを見て、じぶんの心臓がほんの少し早くなるのを感じた。