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【11/21東京125】A Sunshine Girl

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清潔なタオルで拭き取ったばかりの裸足はすべすべのフローリングに少しだけ粘ついた。緩いカーテンの隙間から西日を受け止めるその床にハルヒがバスケットを置く。すると、逆光の陰の中でさらに凹凸を作る背骨の窪みが弾力のある肌の下で動いた。ハルヒの肩胛骨は、そこにはかつて本当に羽根が生えていて、それを丁寧にもいだ後さらに時間をかけて磨いたように、本当にうつくしい形を得ている。一歩近づくと、潮の香りやどこかに紛れ込んでいた僅かな砂を踏む感触が古泉をなぶるようにそそのかした。――海の気配を持ち込んだその背中に鼻先や舌を埋めたい。
「涼宮さん、」
なあに、と振り返る前に背後から腕を腹に回して貝殻のような耳にくちづける。小さく息を呑む音と腕に触れている彼女の皮膚の揺れが連動して海のにおいを沸かせ、古泉はもう一度耳を甘噛みした。ハルヒからこぼれる、ハルヒの優しい悲鳴を体の表面で受け止めながら、水着の肩紐の下や、肩の骨の丸いところや、首の付け根に舌を這わせて、念願の肩胛骨にたどり着く。てのひらの内側では今日一日太陽を浴び続けた肌が震えていて、ゆっくりと撫でるたびに少しずつ体重が古泉に移っていく。
濡れそぼったうなじから一筋落ちてきた雫が肩胛骨を過ぎて古泉の舌に留まり、そこからはくすぶるように魚の透明な内臓のにおいがした。同時に彼女の肌や髪に染みているいつものにおいもした。まるで由来がわからない。それはつまり、海から上がったのは随分前のことだけれど、既にハルヒは内側から海と混ざりあってしまったのだ。あのまま日が暮れても海にいたら、きっと古泉のてのひらとハルヒの暖かい内臓とをしっかりと隔てるこの確かな肌はもっと薄く柔く脆くなり、求めやすくなったと思ったそのときに太陽の色をした鱗が生えて古泉の腕をすり抜けて波の間に呑み込まれてしまうのだ。海が欲しがる、うつくしい生き物。
(冗談じゃない)
母なる海であろうと、漸く腕の内側に得たのだ、渡すものか。肩胛骨に合わせて屈めていた体を起こし、ハルヒの頬に手を伸ばして上半身だけを振り向かせる。ハルヒの唇は潮の味をそこかしこにわだかまらせて、古泉の舌を恐る恐る受ける。体中が熱かった。ハルヒの体も多分熱い。思考から先に麻痺していき、息の熱さを確かめ合うようにくちづけを続ける。
「古泉くん、」
唇が離れた隙を縫って、ハルヒは言葉を挟んだ。熱い息に挟まれた声はひやりと古泉の胸を撫でる。冷たく、涼しい心地よさ。ハルヒの肌には鱗なんて生えていない。
「あたし、シャワーをあびたいわ」
ね? と囁きながら捻っていた体を古泉に向けて、ハルヒは潤んだ瞳を瞼で乾かす。肩紐の片方は二の腕の半ばに引っかかり、ハルヒが置いたバスケットは横倒しになって中身を広げていた。
「……すみません、」
「いいのよ」
バスケットを適当に整えながらハルヒは上機嫌のように見えた。今し方の失態はゆっくりと古泉を苛み、ハルヒの太陽に似た熱さがどんどんと離れていく。絶望には満たない曖昧な寒さがまだ熱の残る肌に触れて、古泉は俯いた。
「じゃあ、先にあびてくるからね」
ハルヒは恐らく気づいておきながら、古泉を置き去りにして浴室へ向かった。まだ乾ききらない足の裏がぺたぺたとフローリングの上で音を鳴らして遠ざかっていくのを、半身で聞き取る。やがて、浴室のドアの開く音、閉まる音がする。適当に整えられたバスケットがまたぱたんと倒れて、今度は控えめに中身をこぼした。