穏やかな日々を切り裂いた
僕は、ワコが笑っていればよかった。
ワコが自由になれたら、ソレだけでよかった。
望みはそれだけ。
ツナシタクトが現れるまでは。
---------------
「だ〜〜〜からぁ〜〜〜〜!!」
僕とワコの穏やかな日々を切り裂いた。
その騒々しい声が廊下まで響いていた。
「勘弁してくださいってっ!俺、そういうのよく分かんないし・・・フ、フ、・・・フ女子?何それ?」
「腐るとかいて腐女子だよ。タクト。」
部室に入ると嫌でも一番に目に飛び込む、赤い髪。
どうやらジャガーとタイガーに、遊ばれているようだ。
どうせまた僕とタクト絡みの舞台を、やってみないかと説得されていたんだろう。
傍らでは許嫁である幼なじみが、困ったような顔をしてのんびりと笑っている。
「別に僕は構わないけど?演技の幅も広がるし、期待に答えてみたら?」
「ちょっ!!!」
つり目がかった大きな瞳。
こぼれ落ちそうになるほど見開いて。
そんな大げさな反応をいちいちしてくれるのだから、誰だってからかいたくなるだろう。
「ぼっちゃまの了承いただきましたーー!!」
「これはもうタクトさまに選択の余地なしですね!(ニヤリ)」
「にやりって、・・・・・スガタァ!!(泣)」
タクトのことはできるだけ受け流す。そう決めた。
「もう、意地悪だなあ〜スガタくん。」
「そういうワコも、助けてあげないんだ?」
ワコがタクトを、気に入っているから。
彼が銀河美少年だから。
「あっ。そうだね!全然気づかなかった!」
「ははは!ワコが一番ひどいよ。」
何の違和感もなく、僕とワコの間に入ってくる。
でも僕は彼の存在を受け入れることができないでいる。
ただ表面を取り繕うために、ひたすら受け流すしか方法がみつからない。
ツナシタクト。
僕とワコの学園生活を少し賑やかにしてくれる、ムードメイカーが一人増えるだけの筈だった。
そんな簡単な存在じゃなかった。
いつの間にかタクトが中央にいる。
選ばれた人間だからなのだろうか?
どこにいても一人突き抜けて見える。
こんな狭い部室では、彼の存在を感じずにはいられない。
「・・・・・・スガタくん?」
「え?」
「どうしたの?」
心配そうに、しかし困惑したような眼でワコが僕の顔を覗いていた。
心を見透かされてしまいそうで、心臓がキュッ縮まるのがわかった。
「?・・・どうかしてるかな、僕。」
武道というのは技術だけではなく、精神鍛錬されることが素晴らしい。
即座にいつも通りの笑顔を返すことができる。
「あ、ごめんね。なんだか少し疲れてるように見えて。」
「まいったな。実はこの頃寝不足でね、でもそれだけなんだけど、ワコには隠せないな。」
先ほどまで賑やかしくしていた三人も、いつの間にか僕の顔を伺っている。
視界の中のタクトが、こちらを注視しているのが分かる。
ワコに瞳に視線を注いで視界から消し去ってみたが、もう全神経は彼に集中してしまっている。
「よしっ!今日は解散しよう!先輩も遅くなるって言ってたし。スガタくん、私がここに居ると帰らないでしょ?」
自らの膝をタンッと叩いてワコが立ち上がった。
「ほんとにただの寝不足で、大したことないんだけどなあ。」
「ううん、やっぱり解散!このところ綺羅星との戦いも続いてるし、タクトくんも休んだ方がいいと思うから。」
「えっ?俺?・・・・俺は全然元気だけど・・・それしか取り柄ないし!」
あはは!と軽やかに笑う。
その顔がフとまじめになってこちらを見つめた。
「でもたしかに、今日は解散にしようか。」
タクトは少し寂しそうな眼をして、無理に一方の口角を持ち上げた。
---------------
充分すぎる光が差し込む、朝の教室。
見晴らしのよいテラス側の席で、いつもぼんやりと空を眺めている。
赤い髪のド派手なクラスメイトがいない。
「あれ〜〜?タクトくん寝坊かな〜〜?」
「さあ・・・。」
「朝食食べ損ねるから、朝寝坊はしないって言ってたんだけどな〜。」
ブツブツと漏らしながら、ワコはタクトの斜め後ろの席に荷物を置いた。
何事もなかったように、話しかけてきた友人に笑顔を見せる。
その光景に、ふと、タクトが居なかった頃を思い出した。
そうだ、朝はいつもこうだった。
とても穏やかで平凡だった。
でもそれで充分だった。
そう思った時ベルがなった。
皆が席につく。
個性的なクラスメイトたち。
それでも派手なのは個人の話で、とても平凡なクラス。
テラス席の空席に目を向けると、ワコがその机を眺めていた。
「ちょっと!タクトくんサボリだよこれ!絶対!」
鼻息を荒げてワコが迫って来た。
「・・・そうみたいだね。」
「一人でサボるなんてヒドくない!?エスケープするなら一声かけてくれたっていいのに!!」
ムキになって拳を突き上げる仕草が、子供っぽくて吹き出してしまう。
「あー!ちょっとぉなんで笑うのー!?」
「ごめんっつい、かわいくって。」
ひと呼吸ついて顔をあげるとワコが赤面していて拍子抜けした。
ワコだけではなく側にいた女子生徒も、顔を赤らめて僕たちの会話をうかがっているようだった。
(まずかったのかな・・・)
「もう!私じゃなくってタクトくんのことだよー!」
「そうだね、まあでもタクトのことだし。お昼休みにはひょっこり現れるよ。」
「む〜。抜け駆けした罪は償ってもらうんだからっ!」
頬を膨らませて自分の席へと帰って行く、「やっぱり子供っぽい。」ワコに聞こえないようにつぶやいて、また笑いが込上げて来た。
ワコとタクトはああいう子供っぽい所が似ている。
「っ 。」
自らの心の声に息をのむ。
ワコではなく。
タクトを思い浮かべて笑っていた。
始業ベルが鳴ると、視線が自然とタクトの席へと写った。
確かめなくても居ないことは分かっていた。
タクトが居ると、
教室の空気が変わるから。
----------------
三時限目の休み時間。
タクトのいる所は大体予想がついていた。
屋上の給水タンクがある場所は、フェンスで仕切られていて誰も入れない上に、入り口の真裏に設置されて死角になっている。
潜り込めば誰にも見つからない。
タクトが転校して来た当日に探し出した、マル秘スポットだ。
フェンスを超えるとそこには澄み渡る青い空と、
「やっぱり。」
赤い髪。
「スガタ!」
「ワコが怒ってるぞ、エスケープするなら誘えって。」
かなり驚いた様子で、ぽかんと口をあけたままこちらを見上げている。
まさか僕が訪れるなど、夢にも思っていなかったような驚き方だ。
構わず隣に腰掛けると、なるほど。
教室の窓など比べ物にならない、遮るもののない大空。
「授業なんてどうでもよくなるな。」
僕の言葉が脳に到達するまで数秒、やっと開けっぱなしの口を閉じて。
「だろお!!」
興奮気味に顔を接近してきた。
一瞬たじろぐ僕にも気づかず、感情が抑えきれないように溢れる笑顔。
その笑顔に。
簡単に狼狽させられる。
タクトが銀河美少年だから?
それとも、タクトだから銀河美少年なのか?
さきほどのタクトのように、間抜けにも口をあけたままフリーズしていた。
「ごめん。」
ワコが自由になれたら、ソレだけでよかった。
望みはそれだけ。
ツナシタクトが現れるまでは。
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「だ〜〜〜からぁ〜〜〜〜!!」
僕とワコの穏やかな日々を切り裂いた。
その騒々しい声が廊下まで響いていた。
「勘弁してくださいってっ!俺、そういうのよく分かんないし・・・フ、フ、・・・フ女子?何それ?」
「腐るとかいて腐女子だよ。タクト。」
部室に入ると嫌でも一番に目に飛び込む、赤い髪。
どうやらジャガーとタイガーに、遊ばれているようだ。
どうせまた僕とタクト絡みの舞台を、やってみないかと説得されていたんだろう。
傍らでは許嫁である幼なじみが、困ったような顔をしてのんびりと笑っている。
「別に僕は構わないけど?演技の幅も広がるし、期待に答えてみたら?」
「ちょっ!!!」
つり目がかった大きな瞳。
こぼれ落ちそうになるほど見開いて。
そんな大げさな反応をいちいちしてくれるのだから、誰だってからかいたくなるだろう。
「ぼっちゃまの了承いただきましたーー!!」
「これはもうタクトさまに選択の余地なしですね!(ニヤリ)」
「にやりって、・・・・・スガタァ!!(泣)」
タクトのことはできるだけ受け流す。そう決めた。
「もう、意地悪だなあ〜スガタくん。」
「そういうワコも、助けてあげないんだ?」
ワコがタクトを、気に入っているから。
彼が銀河美少年だから。
「あっ。そうだね!全然気づかなかった!」
「ははは!ワコが一番ひどいよ。」
何の違和感もなく、僕とワコの間に入ってくる。
でも僕は彼の存在を受け入れることができないでいる。
ただ表面を取り繕うために、ひたすら受け流すしか方法がみつからない。
ツナシタクト。
僕とワコの学園生活を少し賑やかにしてくれる、ムードメイカーが一人増えるだけの筈だった。
そんな簡単な存在じゃなかった。
いつの間にかタクトが中央にいる。
選ばれた人間だからなのだろうか?
どこにいても一人突き抜けて見える。
こんな狭い部室では、彼の存在を感じずにはいられない。
「・・・・・・スガタくん?」
「え?」
「どうしたの?」
心配そうに、しかし困惑したような眼でワコが僕の顔を覗いていた。
心を見透かされてしまいそうで、心臓がキュッ縮まるのがわかった。
「?・・・どうかしてるかな、僕。」
武道というのは技術だけではなく、精神鍛錬されることが素晴らしい。
即座にいつも通りの笑顔を返すことができる。
「あ、ごめんね。なんだか少し疲れてるように見えて。」
「まいったな。実はこの頃寝不足でね、でもそれだけなんだけど、ワコには隠せないな。」
先ほどまで賑やかしくしていた三人も、いつの間にか僕の顔を伺っている。
視界の中のタクトが、こちらを注視しているのが分かる。
ワコに瞳に視線を注いで視界から消し去ってみたが、もう全神経は彼に集中してしまっている。
「よしっ!今日は解散しよう!先輩も遅くなるって言ってたし。スガタくん、私がここに居ると帰らないでしょ?」
自らの膝をタンッと叩いてワコが立ち上がった。
「ほんとにただの寝不足で、大したことないんだけどなあ。」
「ううん、やっぱり解散!このところ綺羅星との戦いも続いてるし、タクトくんも休んだ方がいいと思うから。」
「えっ?俺?・・・・俺は全然元気だけど・・・それしか取り柄ないし!」
あはは!と軽やかに笑う。
その顔がフとまじめになってこちらを見つめた。
「でもたしかに、今日は解散にしようか。」
タクトは少し寂しそうな眼をして、無理に一方の口角を持ち上げた。
---------------
充分すぎる光が差し込む、朝の教室。
見晴らしのよいテラス側の席で、いつもぼんやりと空を眺めている。
赤い髪のド派手なクラスメイトがいない。
「あれ〜〜?タクトくん寝坊かな〜〜?」
「さあ・・・。」
「朝食食べ損ねるから、朝寝坊はしないって言ってたんだけどな〜。」
ブツブツと漏らしながら、ワコはタクトの斜め後ろの席に荷物を置いた。
何事もなかったように、話しかけてきた友人に笑顔を見せる。
その光景に、ふと、タクトが居なかった頃を思い出した。
そうだ、朝はいつもこうだった。
とても穏やかで平凡だった。
でもそれで充分だった。
そう思った時ベルがなった。
皆が席につく。
個性的なクラスメイトたち。
それでも派手なのは個人の話で、とても平凡なクラス。
テラス席の空席に目を向けると、ワコがその机を眺めていた。
「ちょっと!タクトくんサボリだよこれ!絶対!」
鼻息を荒げてワコが迫って来た。
「・・・そうみたいだね。」
「一人でサボるなんてヒドくない!?エスケープするなら一声かけてくれたっていいのに!!」
ムキになって拳を突き上げる仕草が、子供っぽくて吹き出してしまう。
「あー!ちょっとぉなんで笑うのー!?」
「ごめんっつい、かわいくって。」
ひと呼吸ついて顔をあげるとワコが赤面していて拍子抜けした。
ワコだけではなく側にいた女子生徒も、顔を赤らめて僕たちの会話をうかがっているようだった。
(まずかったのかな・・・)
「もう!私じゃなくってタクトくんのことだよー!」
「そうだね、まあでもタクトのことだし。お昼休みにはひょっこり現れるよ。」
「む〜。抜け駆けした罪は償ってもらうんだからっ!」
頬を膨らませて自分の席へと帰って行く、「やっぱり子供っぽい。」ワコに聞こえないようにつぶやいて、また笑いが込上げて来た。
ワコとタクトはああいう子供っぽい所が似ている。
「っ 。」
自らの心の声に息をのむ。
ワコではなく。
タクトを思い浮かべて笑っていた。
始業ベルが鳴ると、視線が自然とタクトの席へと写った。
確かめなくても居ないことは分かっていた。
タクトが居ると、
教室の空気が変わるから。
----------------
三時限目の休み時間。
タクトのいる所は大体予想がついていた。
屋上の給水タンクがある場所は、フェンスで仕切られていて誰も入れない上に、入り口の真裏に設置されて死角になっている。
潜り込めば誰にも見つからない。
タクトが転校して来た当日に探し出した、マル秘スポットだ。
フェンスを超えるとそこには澄み渡る青い空と、
「やっぱり。」
赤い髪。
「スガタ!」
「ワコが怒ってるぞ、エスケープするなら誘えって。」
かなり驚いた様子で、ぽかんと口をあけたままこちらを見上げている。
まさか僕が訪れるなど、夢にも思っていなかったような驚き方だ。
構わず隣に腰掛けると、なるほど。
教室の窓など比べ物にならない、遮るもののない大空。
「授業なんてどうでもよくなるな。」
僕の言葉が脳に到達するまで数秒、やっと開けっぱなしの口を閉じて。
「だろお!!」
興奮気味に顔を接近してきた。
一瞬たじろぐ僕にも気づかず、感情が抑えきれないように溢れる笑顔。
その笑顔に。
簡単に狼狽させられる。
タクトが銀河美少年だから?
それとも、タクトだから銀河美少年なのか?
さきほどのタクトのように、間抜けにも口をあけたままフリーズしていた。
「ごめん。」
作品名:穏やかな日々を切り裂いた 作家名:らむめ