自分だけの
覚醒を促すアドニスが無くなったとはいえ、力を溜めるブースターの役割に過ぎなかったとはいえ、ソルブレイズがオリハルコンで出来ていることに変わりはないんだ。かつてアトランティスを滅ぼしたことも、紛れもない事実だ。これから先、バトルをしているうちに、どんな力をどんなふうに溜めこんでいくか分からない。何が引き金になるか……俺だって、まだ、ソルブレイズのすべてを分かっているわけじゃない。また、良からぬ何かを起こしてしまうかもしれない。この星を、人間を、……おまえを、傷つけてしまうような何かを。
また海底深くにでも、沈めておくのが正しいのかもしれない。これ以上誰の手にも触れられないまま、忘れられてしまった方が、その方が安全なんじゃないだろうか。幸いと言うべきか、俺がソルブレイズを手にしたのはほんの最近で、他のベイを使ってきた年月の方が長い。手放しても、きっと俺はこのままブレーダーとして―――
「バカ言うな」
真っ直ぐな声が、独白を引き裂いた。反射的に顔を上げた先で、銀河の琥珀の瞳とかち合った。目を逸らしたくても逸らせないほど、ぎらぎらとした光を湛えている。
「ソルブレイズがブースターだってんなら、それじゃあ、ペガシスは何なんだ? アドニスを呼んだのはペガシスの力なんだろ。ペガシスの方がよっぽど危険じゃないか。おまえは、俺に、ペガシスを手放せって言うのかよ」
「銀河……」
ヘリオスは息を呑んだ。有無を言わせない強い意志が、視線に乗ってヘリオスに突き刺さる。
「俺はペガシスを手放さないぜ。絶対、何があっても」
おまえはどうなんだ。 無言で、そう問われていた。ヘリオスは手の中のベイを見つめた。真紅に光るそれを、これから何と表現すればいいのか、迷った。滅びを招く危険物か、崇め奉る太陽神か、それとも、これから共に歩む、相棒か。ヘリオスは、幼い頃からずっと待っていた。このベイを手にする日を夢に見続けてきた。磨き上げ、鍛えてきた力と技はソルブレイズを操る為だった。たとえアトランティス復興の為に誘導されていたのだとしても、ベイバトルは確かに楽しかった。ベイが好きだった。
「(許されるのか……ソルブレイズを持ち続けても)」
待ち焦がれていた力。この太陽の力を、これからは自分の力を高め、自分の楽しみの為に、使う。かつて照らすべきだったアトランティスは、もう無いのだ。
「ペガシスは俺の相棒だ。他のどれでもないペガシスだけだ」
ペガシスを見つめる銀河の眼差しの、なんとやさしいことか。凄まじいパワーを秘めたペガシスに、恐れも懸念も抱いていない。あるのはただ絶対的な信頼だ。
「………俺のベイ、か…」
ソルブレイズはもう、神器でも何でもない、ヘリオスのベイだ。
ヘリオスだけの、太陽なのだ。