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一途にはなりきれない

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俺は行く、と、キョウヤは言った。
「まだまだ、もっと強くならなきゃならねえ。アイツがこの先の大会を勝ち上がっていくつもりなら、同等の…いや、それ以上のことをして、次こそアイツに勝てるように」
その、一途も一途な強い想いを、一体誰が止められようか。チームワイルドファングは、サバーナ国の為でも、ダムレやナイルの為でもない、他でもない盾神キョウヤの為に存在していたチームだったのだ。彼が、鋼銀河と戦う為の。それを改めて思い知る。ナイルは彼らの宿命の対決のひとつに偶然、立ち合ったに過ぎない。“強い奴と戦いたい”“世界一になりたい”、その目的は決して間違っているわけでも、見劣りするわけでもないはずなのに、キョウヤを見ていると、取るに足らないもののように思えてしまう。キョウヤのその執念に比べたら、自分の世界大会に懸ける想いはどれほどのものであったろうか、と。そう考えれば自ずと分かることだった。このチームはキョウヤの為のものだ。キョウヤが行くというなら、このチームは解散だ。ナイルの世界大会は終わった。
「じゃあな」
別れの挨拶は短かった。「行くな」とも、「またな」とも言えなかった。次の目的を早々に見つけ、そこに向かって邁進せんとするキョウヤの瞳は力強かった。あれほどまでに勝利を望んでおきながら、敗北がまるっきり苦というわけではなく、むしろ心の底から楽しんでいる。次を、楽しみにしている。それもこれも、あの鋼銀河がいればこそ。たった一人を倒すために、キョウヤは自分のすべてを注ぐ。
歩き出すキョウヤの後を、ベンケイが追う。たった一人で母国を出て、キョウヤを追ってきた男。己の勝利や強さよりも、キョウヤを優先させた男。
「(何なんだ、こいつらは……)」
一途すぎる、強すぎる想いを目の当たりにして、ナイルの足は止まる。

キョウヤにしろ、ベンケイにしろ―――それほどまでに無邪気に、誰かに(たった一人に)しがみついていけるような想いを、それほどまでの渇望を、ナイルは知らない。故郷を出たナイルが初めて認めたブレーダーがキョウヤだった。共に闘ってもいいと思えた、初めてと言ってもいい仲間が彼だ。だがキョウヤにはベンケイがいる。ナイルはベンケイのようにはなれなかった。もう少し、共に過ごした時間が長かったなら、同じようにどこまでもキョウヤについてゆく決心を、することができただろうか。なりふり構わず走って彼を追いかけることができただろうか。――分からない。ナイルの足は砂漠の手前で立ち止まったままだ。

もうどんなに目を凝らしても、二人の背中は見えなかった。
作品名:一途にはなりきれない 作家名:ひょっこ