威風堂々!タウバーン!
(ねーねースガタ)
その響きの甘美さにスガタの脳は即座にリフレインをかけた。
声の主はツナシタクト。
「・・・ん?」
鼻息で返事をしたシンドウスガタは、腐敗しきった脳内を微塵も表情に反影させないスキルを持っている。
二人は今タクトの部屋に居た。
ワコが御祓の時、近頃はこれが二人の決まりになっている。
「ゼロ時間の登場シーン。なんて出てったらいいかな?」
「っぶ!・・・・・・・・・・・登場シーン?」
その強靭に鍛えられた精神力も軽く破壊する。
少年にはそんな秘めた力が・・・、秘められ切れずに溢れ出していた。
「今吹き出した。」
「ああ、吹き出したよ。あまりに斜め上を行く質問だったから。」
「友人としていうけどスガタ、吹き出す姿はあんまり格好良くないよ。」
「忠告ありがとうタクト、だけどタクト以外の前では、吹き出したことないんだよね。」
「それって・・・・喜んでいいのかな・・・・?」
「タクトはユニークだってことかな。」
「それって・・・・誉めてるのかな・・・・・?」
他愛もない会話をする。
ただそれだけで胸が暖かくなる。
スタガは同じ年の男子と、こんな風に話しをしたことが今までになかった。
「で?ゼロ時間の登場っぷ・・・・シーンって何?」
「・・・もう俺、心が折れそう(涙)」
「あはは!ごめんごめんタクト!マジメに聞いてるよ!」
この小さな島で、才能と家柄があり、さらに容姿端麗に産まれてしまえば、誰も容易に近づかない存在になれる。
スガタが15歳の今では、友達といえるものはほとんどいない。
「だってみんなタウバーンと俺が現れるのを待ち構えてるんだぜ?こうさ、ッバーーーーン!っと出てかないと、まず気合いで負けたくないっしょ!」
「そうだな。」
この島の人間でないから。それだけではないとスガタは思う。
タクトがこんなに簡単に、スガタの隣に居るわけは。
「だからさ、何も言わずに『よいしょっ!』と現れて『じゃあやりますか。』ってなんか締まんないんだよね。」
「それで?」
「それで登場の台詞をこうさ、ッバーーーーーン!っと決めたいわけっ!豪快に!」
「『ツナシタクトただいま参上!』とか?」
「そうそうそう!そうなんだけどスガタ、発想古っ!」
「『銀河美少年とは、俺のことでぇ!』とか?」
「そうそう!そういうことなんだけどスガタ、時代劇結構見てる?」
「僕の柄じゃないよ、そういうのは部長の役だし。」
途中までまじめにキャッチボールしていたが、スガタは気付かれないように話題から身を引いた。
興味が無い話をまじめに聞いているように聞き流すスキルも持っている。
「こんなのはどう?『この世に悪がある限り、天に代わって悪斬る!』」
「それも時代劇だろ。」
「『天知る地知る子知る我知る』」
「なーがーいよ。一言で登場しないと、不意打ちくらうぞ。」
飽きて来たスガタは上半身を引いて、斜めにタクトを眺める。
これは話半分に、タクトを観察したい時のスガタの癖だ。
「『意っ気軒高!タウバーン!』」
「っぶ!?」
「・・・は、四字熟語!カッコいい!!」
「ちょっと待って、何しっくりきてるんだ、君は。」
「いやいい線来てるよ!ちょっと見てて!」
そういうと、タクトは自信ありげに部屋から飛び出した。
タクトが去ったドアを眺めていると、数秒後、
バーーーーン!と勢いよく扉が開いた。
「『威風堂々!タウバーン!!!!』」
「ぶーーーーーー!!!!」
これだ!
というタクトの心が声が、スガタには聞こえた気がした。
バターーーーン!
「『堂々登場!タウバーン!』」
「ぷすーーーーー!!!!」
バターーーーン!
「『英姿颯爽!タウバーン!』」
「すすーーーーーー!!!!」
バターーーーン!
「『容姿端麗!銀河美少年!』」
「ぶうーーーーーー!!!!」
バターーーーン!
「颯爽登場!!!銀河美少年!!!!」
その頃には、スガタが床に膝と額をついて腹を抱えていた。
「ごめんスガタ。君をそんな姿にして。あ、頭上げて・・・王の資格を持つ人が・・・。」
お腹が壊れたスガタは、全身の力が抜けてカーペットの床にゴロンと転がった。
「・・・・・・・・・・くるしい。」
涙を流しながら腹を抱えている。
そんな経験、スガタは初めてだった。
スガタを見下ろすタクトは、フっと笑って言った。
「スガタが一番笑ったやつにする。」
「・・・はぁ・・・『颯爽登場?』あははっ傑作だったけど。相手にバカにされない?」
「バカにされてもいい。」
スガタがいつもハッとさせられる、あの顔のタクトがいる。
「死ぬかもしれないって戦いで、スガタが笑ってるとこ思い出したい。」
口元は無邪気で悪戯心いっぱいの子供、細めた目は眩い光でも仰いでいるような。
タクトの満面の笑み。
スガタは何度でもコレに、心を奪われる。
強靭な精神を破壊される。
タクトはすっくと立ち上がりウルトラマンのポーズをとった。
「颯爽登場!銀河美少年!」
二人は顔を見合わせて、もう一度笑い合った。
タクトの部屋を通りかかる寮生は、その笑い声がスガタだとは予想もしなかった。
「前にも言ったけどさぁスガタ、笑ったスガタってすっごい好きなんだ。」
「告白ありがとうタクト、だけどタクトの前以外では、こんな風に笑うことないんだよね。」
「それって・・・・全然喜べないな・・・・。」
「タクトは特別だってことだよ?」
「うん・・・・やっぱり嬉しくないや。」
タクトの困ったような少し悲しげな表情が、なぜか女性的だとスガタは思った。
作品名:威風堂々!タウバーン! 作家名:らむめ