オレンジデーおまけ
しかし、アレルヤがこのまま気落ちして、後ろ向きの思考になられても面白くない。オレンジデーとやらを教えられたにも拘わらず、放置されてもつまらない。
ティエリアは仕方がないので、ヒントでも与えようかと思った、のだけれど。
叱られた大型犬よろしく見えない耳と尻尾を垂らして、しょんぼりとしているように見えるアレルヤに、ティエリアにしてはとても珍しく悪戯心がムクムクと沸き上がった。同時に、少しばかり仕置きが必要だろうという思いも。
「アレルヤ、知っているか?」
「え? なに?」
「オレンジデー、だ」
知っているも何も、オレンジデーは今まさに話題にしている内容である。知らない筈がないのに、一体ティエリアは何を言い出したのか、アレルヤは訝し気に首を捻った。
「日本以外の一部地域のオレンジデーは、ああ、いや、4月14日と言うべきだな」
「うん?」
「この日はブラックデーと言って、バレンタインに告白もされなかった、もしくはフられた者が、一人寂しくジャージャー麺とやらを泣きながら食べる日でもあるそうだ」
これはアレルヤの話を聞いていて、記憶の奥底から掘り起こされたものだったが、アレルヤの言う幸せそのものなものと比べると完全に真逆だ。
「え?」
案の定意味が取れないのか、アレルヤは顔を上げたもののポカンとした表情をした。まさに鳩が豆鉄砲を食らったという顔だ。
ティエリアとてジャージャー麺がどのような食べ物なのか、何故そういう習慣になったのかまでは知らないが、調べた当時はヴェーダとリンクしていたのだから間違いはないだろう。
「君もジャージャー麺を食べるか?」
「え? え?」
アレルヤのそんな顔を久し振りに見たティエリアは満足気に綺麗な微笑を浮かべると、踵を返し軽やかな足取りで談話室を後にした。
そうしてティエリアが通路に出た数瞬の後。
「え、え、ええぇ!? ティエ、ティエリアっ!? ちょっとそれ、どういう意味!?」
きっと彼は顔色を青くしてながらバタバタと追いかけてきて、情けない表情そのままに、躊躇いながら腕を伸ばして抱きしめて。
少し高めの声を泣きそうにしながら、問うてくるだろう。恋人同士だよねとか僕の片想いじゃないよねとかなんとか。
そうして、やはり全然気付かないアレルヤが悪いと、しっかり灸を据えて溜飲が下がったら、今度はちゃんとしたヒントをやろうと。
談話室から一人の残されたアレルヤの慌てふためいた声が響き、それを背中で聞いたティエリアは微笑みを深めた。