理想的15cm
「そうそう、知ってる?カップルの理想の身長差って20cmらしいよ〜!」
「マジで!?ウチとヒロくん20cm差なんだけど!ヤバ…運命かも…!」
「キャハハハ、やばいじゃん!」
道行く女子高生がそんな会話をしていた。
惜しいな、とその会話を耳にしていた臨也は思った。
同時に、今日はシズちゃんにこの話をしよう、とも思った。
臨也は自分の家に帰ってきた。とりあえず今日の分の仕事は終わったし、一日ゆっくりしよう、とぼやきつつ部屋へ入る。
部屋にはそこにいることが日常かとでも言うように静雄がいる。
事情により、臨也の部屋に居候しているのだ。
「ただいまー、シズちゃんいい子にしてた?俺がいなくてさびしくなかった?」
「寝言は寝て言え、今日は早かったんだな」
雑誌から顔を上げて声をかける。静雄はいつものバーテン服ではなく、ラフな私服で、サングラスも外していた。
「そうそう、知ってるシズちゃん、カップルの理想の身長差って20cmなんだってさ」
ごろん、とソファに座っている静雄の膝に頭をのせる。いわゆる膝枕のかたちになった。
それでも静雄は少し眉間にしわを寄せただけでなにも言わない。この動作が日常になっているかのようだった。
「ほお、それがどうかしたか」
「俺とシズちゃんの身長差は15cm、惜しいね」
体を少しひねって、ぎゅっと、静雄の腰ごと抱きしめてしまう。静雄は少し驚いたようで、雑誌を落としそうになった。
「というか、俺と15cm差だって言ったってそれは男女のカップルだろ、俺たちは男同士だし…あっ」
静雄はそれを言ってから、しまった、という顔になった。
「ねえ、それって俺たちがカップルってシズちゃん認めてくれたの!?」
がばっと顔上げて、今度は上半身から静雄に抱きついた。
うれしいなあ!俺、人ラブ、っていうかシズちゃんラブ!みたいな!?シズちゃんってば照れてるだけで相思相愛だったんだね俺ら…!
臨也は一挙にそれを言い放った。そのあと臨也に放たれたのは静雄が手にしていた雑誌であった。
「ちょっ…痛っ…!なにすんのシズちゃん!!」
「てめぇがふざけたこと言ってるからだろ!俺は認めてないぞ!断じて認めてないからな!」
「照れなくていいんだよ!というか今も膝枕してくれてるし!同棲してるし!」
「これは俺の本意じゃねえ!!!それに抱きつくな!離れろ気持ち悪い」
はぁ、と静雄はため息をこぼした。
「あ、でもさ、15cm差って言ってもシズちゃんネコなのにシズちゃんのが背高いよね。それがさらに燃えるね。」
「何言ってんだノミ蟲!!殺すぞ!!」
「というか、なんで今照れてるの…。毎晩愛し合っているっていうのに…恥ずかしがらなくていいんだよ」
「なんかもう本当気持ち悪い…」
再度ため息をついていても、静雄は臨也を振り払おうとはしなかった。
臨也も静雄を離そうとはしなかった。
「あーシズちゃん好きだよ、殺しちゃいたいくらい好き、いや殺さないけど」
「はいはいそりゃどーも。俺も殺したいけど殺せねーよ」
(でも20cmもあったらキスしづらいよね)(知らねーよ)