放課後イニシエーション
『ねぇねぇ、知ってる?こんな噂が流れてるんだけどさ…』
『えっ、嘘!マジで!?』
放課後イニシエーション
それは臨也がある女子生徒を振った日の次の日のことであった。
なぜか朝から学校中がざわついていて、生徒達の話題はある噂話で持ちきりだった。
その噂話とは、「折原臨也と平和島静雄はデキているらしい」という話だった。
しかしその噂話も「折原臨也と平和島静雄が珍しく喧嘩せずに2人で帰っていた」という目撃談が人に伝わり、その伝わっていく中で捻じ曲がっていった話なのだが。
噂話を聞いた人々の反応は人それぞれで、
「まあ、喧嘩とかしなくなるんだったら別にいいんじゃねぇの」と言う人もいれば
「そうか…平和島が折原に…」「ええっ、折原くんが!?ショック〜…」「私的には全然OKだよ」「いつも喧嘩してるのはなんだったの?というか男だよね?」
などと言う人たちもいた。
そんな噂が飛び交っているとは露ほども知らない静雄は、いつもどおりに登校してきて、何故か自分に向けられる好奇の目に苛立ちを隠せなかった。
そして苛々したまま教室へ入り、席についたかと思うと、目の前の席に座っている新羅の頭をがしっと掴み小声で聞いた。
「さっきからなんなんだよ…っ。新羅ぁ、てめぇならなんか知ってんだろ…?」
静雄は苛立ちながらもいつもと違う周囲の反応に戸惑っているようだった。
しかし新羅も新羅で頭の上にはてなを浮かべた状態で静雄のほうを見た。
「いや、実はさ俺も知らないんだよ…。気になるなら僕がみんなに聞いてきてあげるからさ頭離してくれないかな、っ痛い痛い、痛いってば!」
新羅が本気で涙目になりはじめているので静雄はぱっと手を離した。
すると新羅は、「ちょっと待っててね、聞いてくるから」と行って近くで談笑していた男女の輪の中に入っていった。
「(ちくしょう…、なんだってんだよ…)」
「(あー、これは静雄に言わないほうがいいかな…)」
―
一方臨也は既に登校していて、屋上で1人考えていた。
まずいことになっちゃったなぁ…、あの子振ってこんなことになるなんて…。今頃シズちゃん怒ってるだろうなぁ、なんてことを考えて臨也は頭を抱えていた。
「ああーシズちゃんに会いたいけど会いたくない!」
そう叫んだ瞬間屋上の扉が開いた。
「いーざーやーくーん、どういうことか説明してくれないかなあー?」
そこには今まで見たこともないような美しい微笑みを浮かべた静雄が立っていた。
やば、俺の予想的中?これかなり怒ってるよね、シズちゃん。
普段の余裕はどこへやら、臨也にしては珍しくしどろもどろと答えた。
「あ、え、いや、シズちゃん…、これはね、色々あってさ…」
「その色々を教えて欲しいって言ってんだよ、臨也くんよぉ…」
臨也も臨也で正直どうしてこうなった、としか思えないので説明もなにも出来るものではなかった。
どうしようかと視線を落とし、ああでもだめだいっそ言ってしまおうか、と顔を戻したとき、臨也は驚きで目を見開いた。
なぜなら静雄の顔が真っ赤で、しかも目にはうっすら涙を浮かべて立っていたからだ。
「な、なんで俺とっ…お前が、つ、付き合ってるみたいな噂がっ…流れてるん、だよ…!!」
やだ、シズちゃん可愛い。つい臨也の口からそんな台詞がついて出そうになったがどうにか喉にとどめた。
いやいやそうじゃなくて、と頭をぶんぶんと振って、口を開いた。
「あ、っと、それはね、実は昨日女の子に告白されちゃってさ…」
臨也は腹を決めて全てを話した。
その話を聞いている間、静雄は複雑そうな顔で。しかし好きな人がいる、という件に入ってからさっきのような真っ赤な顔になり、俯いてしまった。
「…ってわけなんだけどさ。なんだかそれが人を伝わっていくうちに捻じ曲がっちゃったみたい」
「断るってそういうのでいいのかよ…。っ!というかそういう問題じゃなくて、つ、付き合ってるとか言われて、嫌、じゃねえのかよ…」
男同士だし…、と視線をを臨也からそらしながらつぶやく。
「嫌じゃないよ。さっき言ったじゃん、俺はシズちゃんが好きだって…」
臨也は、はぁ、とため息をついた。
静雄は顔をさらに赤くして口をパクパクさせた。
「いっ、いやだって、それは噂でっ…」
「本当だよ、それは本当。今だって顔を真っ赤にしてるシズちゃんが可愛くて仕方ないし、付き合ってるっていう噂話もあわよくば事実にならないかなって思ってるもの」
もうどうなってもいいや、そんな気持ちで臨也はいた。
臨也は静雄の頬をなで、顔にかかっている髪をはらった。静雄は驚きのあまり硬直して動かない。
「シズちゃん、もう俺と付き合っちゃおうよ」
耳元でそう囁いて、耳の横に口付けを1つ落とす。
「…っな、なにすんだよ馬鹿!!!」
静雄は臨也を勢いよく突き飛ばした。少し力加減したようで臨也のダメージは少ない。
「…ぃ、ったいなあ…!俺が素直になったんだからシズちゃんも俺に対して素直になるべきだと思うよ…!!」
驚いてパクパクしている静雄の口を強引に塞ぐと臨也は「噂話の否定、しないから」と言った。
そして屋上から急いで出て行った。
残された静雄は顔を真っ赤にして、口を押さえてぺたんと座り込んだ。
「(っ…、なんなんだよっ…!)」
「(あーもう、俺なにやってんだろ…)」
『(気付いてしまった)』
作品名:放課後イニシエーション 作家名:藤村