気付きたくない
私は竹谷が嫌いだ。
周りから人望があって、委員長としても後輩から慕われている。
同級生たちとも仲良く出来ているし、なぜかい組の私にもなれなれしく接してくる。
そして今日も…
「よー!へいすけ〜!い組はやっぱり補習なしかぁ…いいなあ」
そういう竹谷は手にいっぱいの教科書を抱えている。これから教室へ向かうのだろうか
「ああ、それはもう終わらせたのだ。ろ組でもそれは終わらないのか…大変だな」
皮肉を込めて言ったつもりだった。それでも竹谷はにこにこ笑って「兵助はすごいなあ!」と言うばかりだった。
その笑顔を見るたびに胸のあたりがチクチクと痛む。一体この痛みはなんなのだろうか…
無性にいらいらする。そんなことを考えつつ眉をひそめていると眉間を指でつつかれた。
「そんな怖い顔してどうしたんだよー…。なんか俺怒らせるようなこと言ったかなぁ?」
心配そうに目を見つめてくる。「いや、なんでもない。竹谷は別に悪くない。ただ考え事をしていただけだから」と答えた。
「お、三郎がいる。一緒に教室いくかなー」
竹谷は鉢屋へ視線を移した。こっちを見ろよ、なぜ自分がそう思ったのかはわからない。
「じゃあ行くな!いきなり話しかけてごめん!」
鉢屋のほうへ行こうとした竹谷の腕をつい掴んでしまった。なにをしているのか。
「えっ!?え、なに?どうしたの…?」
「す、すまない…。つ、つい…。」
すぐ手を離してしまった。もう少し掴んでいてもよかったかな。
竹谷があの太い眉を下げて私を見ている。その目が嫌いなんだ、胸が痛い。
こちらの様子に気付いた鉢屋がこっちへ向かってくる。くそ、なんで来るんだよ。
「竹谷〜ぁ、どうしたんだ?お、い組の久々知くんじゃないか、うちの竹谷になにか用でも?」
うちの、ってなんなんだよ。竹谷がお前のものみたいじゃないか。
「別に、話してただけだ」
「ふぅん…、まあいいけど。竹谷ー、早く行かないと遅刻になるぞ〜」
鉢屋がこちらをちらちら見てくる。牽制でもしているつもりなのだろうか、いや、なんの牽制だ?
私は一体なにを悩んでいるのだ。竹谷くらいなんてことない、ただの同学年だ。
「じゃあな、兵助〜!なんかタイミング悪かったみたいだなーまたな!」
「久々知くん、邪魔したな、それじゃ」
にやりと人の悪い笑顔で鉢屋はこちらを見てくる。なんなんだあいつ。
竹谷のことを考えると喉の奥が苦しい。
私は竹谷が嫌いなんだ。