楽園(いつかどこかで)
「お兄様の作られた紅茶のシフォンは本当においしかったですよ」
「兄さんが作ったビーフシチューもおいしかったよ」
「お兄様が作ってくださるビシソワーズもとてもおいしかったです」
「そうそう、ここは日本だからって、日本食も食べさせてくれたよ」
「ご飯にお味噌汁。そうだ、お魚も素敵ですね。焼き魚に、煮魚に、つみれもとても美味しかった」
「焼き魚と言えば、僕はじめてだから魚の骨を取るのがたいへんで、結局全部兄さんに取ってもらう羽目になってさ」
「一人で食事をいただくようになって、私もあのたいへんさを知りました。でもお兄様は」
「うん、兄さんは上手だったよね」
「ええ、とても正確で早くていらっしゃって」
「兄さんが」
「お兄様が」
「兄さんの」
「お兄様の」
微笑みあって兄語り。弟妹たちの会話は朗らかに、果てしなく続く。
2008/12/09
作品名:楽園(いつかどこかで) 作家名:川木