この瞳に映るもの
見送りの人々の中に鮮やかな色を見とめ、私は視線を動かした。
「ナナリー様、先ほどはどうされましたか。何か気にかかることでも?」
専用機に乗り込むと同行の侍従に声をかけられた。私は先ほどの眩しさを思い返す。
「いいえ、明るい色があったから目を奪われてしまって」
「明るい?」
「緑色。沿道の女性の、髪の毛の色でした。あんなに鮮やかな色は初めて」
(わたしには、まだまだ見たことのないもの、それから
見なければならないことがきっとたくさんあるんですね。本当に、そうなんですね)
あれから数ヶ月。時折こうして胸の中であなたに語りかける癖がまだ抜けない。
ふと目をやると、後から乗ってきた黒衣の人の動きが止まっているのが見えた。
どうしました、ゼロ。彼の背後からシュナイゼルお兄様が語りかけると、何でもないというように軽く手を振り座席に着く。
黒い仮面の視界は狭く、あなたは私があなたを見つめていることに気付かない。
あなた方は、私に見られることに慣れていないから。
選んで私が口にした辛辣な言葉を受け止めたとき、あの人はかすかに目をそらしました。
ではあなたは、視線の合わない仮面の中で、何を思い、何を隠しているのでしょうか。
あなた方はどうして、私に、嘘を。
引きずり出され同時に胸に浮かんだ問いのうち、後者はすでに正しく解かれている。
反射する黒い仮面の向こうの、あなたの表情を目にすることができない代わりに、
あなたたちの目指し残したその先を、私は、私たちは今目にしているのだ。
2008/12/10