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失いたくない幸せのために全てを

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時をとめて、

 シャーリーさんの腕を掴み、彼女のみぞおちに銃を押し付けて引き金を引いた。



 「元気にしてましたか?」
 僕に気付いた子供達に僕は笑顔で言葉を返し、ためらわずにヴィンセントで薙ぎ払い、彼らを瓦礫の下に追いやった。僕はコクピットの中にいたんだから、僕の顔はあの子達には見えていなかったんだと、隊員を始末してからふと思った。作り笑いをする必要なんて少しもなかったのに。ただいつものように殺してしまえばよいだけだったのに。強張った頬がなかなか元に戻らなかった。なぜだろう?



 政庁から出るナナリーが乗っているはずの脱出艇を落とそうと考えたときには、もうすでに艇はフレイヤの光に呑み込まれていた。ヴィンセントで脱出艇に付いたのは守るためではなく殺すためだったけれど、物理現象には干渉できない僕の力ではどうにもならなかったのは本当だった。本当はここで僕はナナリーの存在の消滅を素直に喜ぶべきだったのだけれど、フレイヤの光のまばゆさと恐ろしさに圧倒されていて、兄さんの声を聞いて初めて我に返った。僕が時間を止めた人たちはみなこんな風に時間の断絶を覚えたのかしらと場違いなことを思った。



 ギアスを使っていないのに心臓が痛んだ。呼吸が止まった。目の前が真っ暗になった。僕はどうやってあの部屋を出たのかも覚えていない。けれどもやがて、心のどこかで自分が安堵していることに気がついた。僕はもう騙されていない。兄さんの嘘はこれでもう全部だ。ずっと怖れていたことは既に起きてしまったのだ。怖いものはもう何もない。斑鳩の中は騒がしかった。兄さんの嘘はここでも崩れ始めているのかとぼんやり考えた。



 兄さんの命令を無視した。殺すことに比べて助けることはたいへんだと、締め付けられる心臓をおさえつけながら、僕は笑いさえした。同じコクピットにおさまった兄さんの声が、僕のギアスに遮られて途切れ途切れに聞こえた。何を言われても止まるつもりは無かった。操られていた過去も、もうどうでもよかった。与えられたものを知って僕は、あなたの為に生きると決めた。蜃気楼の操作は大変で、料理をするときのように器用に動くあなたの指先を想像して、僕は気付くとまた笑っていた。



 この期に及んで僕を何よりも幸福にしたのは、断続的に聞こえるあなたの声が、今だけは、間違いなく僕に向けられた僕だけのものだということだった。