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愛早 さくら
愛早 さくら
novelistID. 6143
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仁羽 4

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 目を覚ます。
 これは夢、夢、夢である。
 静かに。
 ひそやかに。
 目を・・・・・・覚ます。

「臨也」

 こぼれ落ちた声は。
 何処にも、届かずに。


+++++
仁羽 4
+++++


 それはまるで光のただ中にあった。
 ひたひたと躰へと浸透する、奥の奥まで満たされて。
 闇の切れ端にかじりついていた意識がゆっくりと浮上する。
 あたかも池に落ちた草の一つのように。
 そう、それは光。
 ぼんやりと。
 瞼に落ちる。
 そして静雄は睫毛を震わせる前に、その気配に気付く。
 黒い気配である。
 男だ。
 黒い、ただ黒い、真っ黒な男。
 まるで闇から溶け出したような、夜が人の形に固まったような、そんな男。
 男は何も言わなかった。
 静雄が目を覚ましたことに気付いていないのか、あるいは気付いて何も言わないのか。
 静雄にわかるすべなどはない。
 ただ。

「・・・・・・シズちゃん」

 ぽつりと。
 取りこぼすように辺りを震わせた呼気は、だが震えるだけで。
 音を静雄には届けず、だのにはっきりとわかる、男が自分の名を口にしたことが。
 それは、間違えようもない事実として其処にあった。
 透き通って色もなく、人であるなら、あって当たり前な、ほんの僅かの温かみさえない男の『声』である。
 滑らかな指の腹が、静雄の頬に触れて。
 柔い気配が滑って、指はただ、頬に。
 触れて。
 静雄は瞼を震わせなかった。
 目を閉じて、男の指をその肌で感じ、ひどく。
 ひどく、胸が苦しくなるのだ。
 ただそれだけ、それだけで。

「シズちゃん。どうして、どうしてだろう、君は・・・・・・――」

 男の声は、色など持たない。
 それが音となることもない。
 だのに指が。
 静雄に触れる、滑らかな指の腹が。
 ただひたすらにひどく柔らかで。
 黒い気配は光に満ちていた。


作品名:仁羽 4 作家名:愛早 さくら