起きたあとにはベッドで以下略
大の字になって、腹なんぞ出してそれはもう幸せそうにすやすやと。
口から涎なんかを垂らし、挙句に果てには「もう食べらんね……」などという寝言のオプション付きで。
……私のベッドに勝手に入り、寝ているとはいい度胸だな鋼の。
正直頭にきた。なにせこの顔を見るのは半年ぶりなのだ。連絡一つ寄こさずふらふらと旅して回っていたのは想像に難くない。その薄情で問題児の恋人がようやく姿を見せたかと思えばこの状態で。しかも私が徹夜続きの連続勤務というのに私のベッドでこうまでも堂々と幸せそうに寝こけていて。
……このまま裸にひんむいて、前戯もなしに突っ込んでやろうかとも思ったがいかんせん、性欲よりも今は睡眠欲の方が勝るのだ。実に惜しい。口惜しい。せめてもの意思表示に、どかっと一発蹴りをくらわせ、ベッドの中央から端へと追いやった。軍服の上着を放り投げ、空いたスペースに横になる。
ああもう、構うものか。眠ってやる。
憤慨極まりないが、身体を横たえれば怒りよりも睡魔が勝る。蓄積した疲労が圧し掛かってくるようだ、身体が重い……。
重い、のだが、何か違和感を感じてしまう。
蹴り倒したエドワードをちらりと見やる。その彼の身体に違和感が。何がおかしいのだろうという思考が睡魔を上回る。すると、「ひでえな大佐」とか言いながらその鋼のが私の身体の上に乗っかってきた。
ああ、そうか。違和感の正体はこれか。
大の字に寝ていたエドワードのその腕と足。
「酷いのは君の方だろう鋼の。半年も帰ってこなかったというのに勝手の私のベッドで眠り込んで」
半分眠りに落ちそうになりながらもそれでも文句だけはつけてやる。
ただし口先だけで。
私は鋼のの生身に戻った腕をとると、その手の甲に唇を落とす。鋼ではない暖かな腕。吸い上げてやればうっすらと赤い痕が手の甲に付く。そうか、半年も私のもとに帰ってこなかった成果がこれか。
見上げてみれば、鋼のは照れたように笑いながら、それでもどーだとばかりに胸をはった。
「ま、わりぃとしか言いようがねーけどさ。でも、これで目的果たしたから許すだろ?」とあっさりとしたものだった。
「よかったな、おめでとう。私は三日も寝てないんだ。とにかく寝させてくれたまえよ」
「あー、そなんか?ゴクローサン」
気持ちなどこれっぽっちも籠っていない鋼のの言葉。だが、反撃などできないくらいに眠いのだ。
「寝て、起きたら盛大に祝うから」
「べっつにいーよんなの」
「いやいや、大事、だろう?こういうことは。朝起きたらそうだな、君に腕も脚も充分に愛してあげるから」
「……祝い、じゃねえよっ!!それ大佐がオレにしたいことだっ!祝福と願望を一緒くたにすんな」
「半年分のご無沙汰分と君の宿願を果たしたお祝いに記念、であればその腕と足をだね、存分に堪能させていただく所存だよ」
「……親父かよ」
「だが、君が一糸まとわぬ姿で私を待っていてくれるというのなら腕と足だけでなく、つま先から頭のてっぺんまで余すところなく愛を囁いて責め立てるという、そちらに軌道修正可能だ」
「おい……ちょっと待て」
「まあ2・3時間も眠れば君と一戦交えるくらいは可能な程度にまでは私の体力も回復するだろうから。そのころを見計らって咥えていてくれても構わんよ……。とにかく今は限界だ。眠い。おやすみ鋼の……」
「おっさんおっさん、ちょっと待てごらっ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる恋人の声をBGMにして私は眠りの国へと旅に出る。
起きた後にはベッドで君と。めくるめく快楽を。ああもう眠い。限界につき以下省略。おやすみ鋼のまた後で。
‐終‐
作品名:起きたあとにはベッドで以下略 作家名:ノリヲ