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多分きっと明日は晴れる

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この国一番の腕ききと呼ばれるほどの超一流の縫製師に特注で作らせたオーダーメイドのスーツを着て、宝石屋にてこれまた特注で作らせた指輪をそのスーツのポケットに忍ばせて。そして花束も用意して。ついでも今日一日、休みももぎ取って。
これで完璧と勢い込んで、あの子のいるホテルへと、気合も充分に乗り込んでいったというのに。
一世一代の告白をしようと思ったというのに。
何故っ!!

いつもあの子が泊まっている軍部のホテル。
そこに目当ての子供はいなかった。

「あれー?大佐、どうしたんですか?そんなにめかしこんで?」
穏やかな声で自身を出迎えてくれてのは、目当ての子供ではなく、その弟。
「や、やあアルフォンス。は、鋼のは……いるかい?」
今日こそ、今日こそはプロポーズ……は先走りすぎだが、愛を告白しようと昨夜から様々なパターンでシミュレーションを繰り返してきた。鉄拳パンチをくらわされようと、テレまくった挙句蹴りをかまされようと何が何でもロマンチックな雰囲気に持ち込んで、あの子が目的を果たした後は一生傍に居て欲しいとそう告げるつもりできたというのに。少なくとも恋人という関係でこれからお付き合いをしてほしいと、せめてそれくらいは告げたいと。いやいや、それが高望みだというのならせめて私があの子を愛しているということくらいは告げたくて。今あの子が私をどう思っているかはわからないけれど、今でなくていいから、将来的にで構わないから、私のことを少しはそういうふうに思って欲しいななんて……ああ、いかん。だんだん卑屈になってきた。いやいや、好いてもらいたいのだ。私は君を愛しているのだと、そう告げて。そして目指せ両想い!なのだ!!気合を入れろロイ・マスタング!こと恋愛沙汰において私に不可能はない!自信を持って突撃せよっ!!

……その、つもりだったのに。

「ええとですね、兄さん今日は出かけてます。夜まで帰らないんじゃないかなあ?」

………………このパターンは想定外だ。
不在とは、どうすればいいんだろうか?
一瞬頭が真っ白になった。

「伝言でよければお伝えしますけど。……急ぎですか?軍のお仕事とかだったらボク、兄さんが行きそうなところとか探しましょうか?」

がっくりと落とした肩が復活できない。思わず背も丸まって。
「い、いや……いいんだ。また今度来るよ……」
よろり、と。よろめきながら私はホテルを後にした。

ホテルを出て、とぼとぼ歩く。ホテルから自宅までの近道の公園を横切っていけば、そこでは日向ぼっこをする老人や、芝生の上を元気に走り回る子供、談笑する母親たちという呑気な光景が広がっていた。空を見れば当然のように晴れている。風も雲も太陽も。これ以上もなく気持ちのいい天気だ。空の青さが目に痛い。その点気とは反対に私の心はどんよりとした暗雲が立ち込めている。
14も歳の差がある同性の子供に、告白するためには相当の根性が必要だった。告げたくて、しかしもし断られたら立ち直れんかもしれないと何度も何度も葛藤と繰り返して。それでも断られてなるものか、手練手管を使ってでもあの子を私のものにしてしまいたくて。
今でなくてもいいんだ。目的を果たして、それからゆっくり未来を考えるときに私の傍に居てくれればそれでいい。それまで待つよ、と。だから、私が君を好きなことを覚えていてほしい。
せめてそれを告げるつもりだというのに。
……ああ。ため息ばかりついてしまう。もう今日は駄目かもしれない。せっかく休みまで取ったのに。告白して、あの子が承諾してくれてもしてくれなくても、初デートなぞになだれ込んで、そして夜景なんかを見ながら今日の思い出にと、指輪を渡して……まあ、あわよくば婚約指輪という意味にとってもらいたいのだが、そうでなければ今日一日の記念として受け取ってもらうだけでもいいな、なんて、色々と想いを馳せていたのだけれども。ああ、もう、駄目だ。もうベッドに籠って寝てしまおう。いや、駄目じゃないだろう、ロイ・マスタング!男なら根性を見せろ。そうだ明日、明日がある。今日がだめでも明日はある。明日また頑張ればいいだけの話ではないか。何もフラれたわけでもない。単にタイミングが悪く、あの子が不在だけだった、そうではないか。うん、よしよし。
そうやって落ち込みそうな心を何とか留めていると、
「よお、大佐」
と、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「は、鋼の……?」
幻覚か幻聴かと思ったが、現実だった。公園のベンチで呑気に座っているあの子がいた。
思わず目をこすった。けれど消えなかった。
本物の、エドワード、だ。
会えないと思ったあの子が今まさに目の前にいる。
「一応報告書と思って司令部行ったらさー。アンタ休みだって言うじゃん。しょーがねーから図書館か古書店街でも行こうかどうすっかって今考えてたところなんだぜ?」
手間省けてラッキー、とにっかり笑ったあの子の笑顔に、私の理性はブチンと切れた。

「結婚してくれ鋼の……っ!!」

口説き文句も手練手管もすっ飛ばし、結論だけを端的に告げた。性懲りもなく手にしていた花束も差し出した。

けれど眉根を寄せたエドワードから寄せられた言葉は「はあ?アンタどーしちまったの?なんか悪いもんでも食ったんか?」、だ。

……たぶんきっと明日は晴れる。雨が降っても晴れさせる!!男なら根性だロイ・マスタング!

自分で自分を鼓舞する声は胸の中だけで響いていった。


‐ 終 ‐
作品名:多分きっと明日は晴れる 作家名:ノリヲ