沈黙の心
本当は・・・。
竹林の奥にお前を見つけた時、胸が張り裂けそうなくらいうれしかったある。
文字や歌を教えた時の、お前の楽しそうな顔やキラキラした瞳が見たくて、熱心にたくさんのことを教えたある。
お前に兄である事を否定されたときは悲しかったけど、一緒に暮らした日々はとても、とっても楽しかったある。
・・・あの時間が永遠に続くと思っていたあるよ。
だからあの日、お前に刀を向けられた時、起こっている事が信じられなかったある。
いや、信じたくなかったある。
お前が、我が弟が、我に刃を向けているなんて事は。
悲しそうな、つらそうな顔でもしていれば良かったのに、お前はことごとく無表情で、我の悲しさを倍増させたある。
我がその後、三日三晩泣いていたなんて事なんて、お前は知るはずもないある。
それくらい悲しかったあるよ。
でも、我らは『国』だから仕方がないと立ち直ったある。
そしたら今度は、敵同士になったと知らされたあるよ。
さすがにあの時は、我の運も地に落ちたなと、笑うしかなかったある。
つらかったある。
悲しかったあるよ。
戦争中に久しぶりに見たお前は、昔に比べて大きく、たくましくなっていたあるが、その身体は傷だらけで見るに堪えない姿だったある。
やっと戦いが終わって、世界はだいぶ平和になったある。
お前も、見違えるほど性格がやわらかくなって、まるで我と一緒にいた頃のお前に戻った
みたいある。
にこやかに、時には困ったように笑うお前を見て、我はほっとしているあるよ。
だけど最近、お前も含めてみんな調子が悪いみたいある。
それになんだか、我は冷たくされているようで、少し寂しいある。
もう一度、我の事を「にーに」と呼んで欲しいある。
昔みたいに、一緒にいた頃みたいに、我のほうを向いて笑って欲しいある。
我だけを見て、笑って欲しいある。
・・・こんな事、お前には絶対言えねーあるな。