何かが始まる…?
夜の浜辺を靴を脱ぎ捨て、タクトはゆっくりと歩く
寄せる波が触れ、その冷たさに目を細めるが足は止めない
微笑を浮かべ、やがて立ち止まると月を仰ぎ見る
海に映るその淡く光るそれに、目をそっと閉じた
頭に思い浮かぶのは大事な友人たち
中でも強烈に存在を感じるのは───スガタ
「…苦し、い…?」
何故かざわめく心に、思わず胸に手をそっと当て、小さく零す
誰にも拾われることのない、その言葉は、
「…どうした?」
突如表れた人物に届いた
いや、本当は届いてはいけなかった、気付いてはいけなかったのかもしれない
響く音に、心はより騒ぐ
広がる感情に驚くと目を見開き、そのまま固まる──声の方へ振り向けない。いや振り向いたら最後、囚われる…
そんな思いがどうしてか心中に渦巻き、当てた手を握り締める
だがその人物…スガタは動かないタクトへ足を向けてきた──その足音は何かを核心させるよう
近付く気配に焦りに瞳を瞑ると一瞬で感情を奥へ押し込め、目を見開き相手の方へ、ぱっと振り向く
「や、やあ。スガタも散歩?」
いい月夜だよね、と笑いかけ月の光に照らされた相手の姿に思わず目を見開いた
──なんて、綺麗な
淡く輝く青い髪はどこか神秘的
凛としたその立ち姿。涼しい目元は、こちらを不思議な色合いで見つめてくる
無言で見惚れていると、タクト…?と不思議そうに首を傾げ手を伸ばしてきた
頬に触れる体温にはっと意識を取り戻し、急いで体を引く
その際、スガタの目が残念そうに見えたなんて…きっと目の錯覚だ
「あ、ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
自分のペースを取り戻すように頭を一振りすると頬をかき、苦笑を向ける
「…だめだよ、月を見過ぎては…」
あれは魔性だから、とスガタは相手の言葉にふわり微笑むともう一度頬に触れてきた
その一身に見つめ、何かを問いかけてくる瞳に思わず魅入り、タクトは近付く顔に気付かない
「ふふ、なんて、ね」
頬に落ちた熱に体はふるりと震え、跳ね除けないといけないはずの体は動いてくれなかった
答えは見えない…それは本当に?
輝く月の下で頬笑むスガタに、タクトはただ見つめるしかできない
広がる感情は何かが始まる前兆か…
いや、それはすでに始まっていたんだ
────もう戻れない、と心にぴしりと亀裂が走った