きょうは何の日
「うおっさみぃな今日も」
「そっすね」
「なあ静雄よぉ、せっかく明日休みなわけだし、今日は俺ん家でパーッと飲まねぇ?たまには贅沢にいこうぜ」
「マジすか行きます行きます、ごちになります」
「いや、まあ…奢るとまでは言ってないんだけどよ…まあいいか」
仕事が終わり、会社を後にしたトムと静雄は、近くのスーパーにやってきた。ちょうど夕飯時ということもあってか、店内はそれなりに賑わっている。
「トムさん、贅沢って何買うんすか」
トムの後ろをついて歩く静雄がキョロキョロと辺りを見回しながら声をかける。その声にトムは得意気に笑ってみせた。
「ばっかおめー、贅沢っていったらワインに決まってるだろ、ワ・イ・ン」
「ワイン?ワインなんて俺飲んだことないです」
「な、だから贅沢だって言っただろ、お前もまた一歩大人の階段をのぼるわけよ」
と言ったものの、実際トム自身もワインはほとんど飲んだことがない。先日、友人の結婚式で飲んでなかなかうまいと知り、静雄を誘って飲もうと決めたのだか、正直どれにしたらいいものか全くわからなかった。視線を巡らせると、大きめのポップが飾られたコーナーが目に入る。トムはそこからひとつを手にとった。
「ボジョレー・ヌーボー…」
「なんすか?」
「ボジョレー・ヌーボー解禁だってよ」
「解禁?なんか有名なんすか」
「ああまあ、有名なんじゃね?」
静雄に曖昧な返事をしながら、トムはもうこの中のどれかでいいかと、品定めを始めた。
「うーんどうすっかなあ…静雄、なんかあるか?」
「え、いや、俺にはワインわからないんで」
「だよなあ…これとか?」
トムが適当にひとつを手に取ると、すかさず静雄が値段を確認する。
「高くないすかいいんすか」
「…常識ある後輩をもって俺は幸せだよ」
「それ、一番安いみたいですけど」
「これ?うーん、一番安いのだとこう、気分的にちょっとな…じゃあ、その次にお手頃なこれにするか」
「よっ、トムさん太っ腹」
「よせよ照れるだろ」
トムは同じものを二本かごに入れて酒売り場を離れた。後はあったかいものが食いたいよなあと呟くと、静雄が後ろでおでんとか食いたいっすね、と答える。
「おでんか…いいなおでん、そうしよう」
「マジすか、ワインにおでんでいいんですか」
「いいだろ、気にしない気にしない」
「ははっなんか楽しいっすね」
「だな、お前さっさとつぶれるなよ」
「うす」
おでんならコンビニの方がいいよな、と二人は会計を済ませて店を出た。
外は息が白くなるほど寒かったが、不思議とそれほど寒いとは感じなかった。コンビニでたくさんのおでんを買い込んで家路につく。
「でもトムさん、何で今日そんなに太っ腹なんですか」
「んー頑張ってくれてる後輩を、たまには労ってやらねえとな」
「俺の方こそ、トムさんにはすげえ感謝してますよ」
「ははっ、なあ静雄、今日何の日か知ってるか?」
「今日?さあ…何ですか」
「今日なあ、いちいちにーにーで、いい夫婦の日だってよ」
「いい、夫婦…」
「だからよ、まあ、俺とお前も夫婦のように、これからも末永くよろしくな、ってことで」
「…トムさん、飲んでないのに酔ってるんですか」
「…お前こそ、飲んでないのに顔赤くなってるぞ」
「トムさんだって赤いっす」
「……………」
「……………」
目を合わせて二人同時に笑い出す。
夫婦になった誰かさんも、夫婦ではない俺たちも、どうか末永く仲良くやっていけますように。