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プラシーボ

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「団蔵に告白された」 
 きりちゃんが私に真剣な顔でそう告げてきたのは、もうすぐ4年次が終わろうとする冬のことだった。
 薬草を摺る手を止めて、思わずまじまじときり丸の顔をみる。
 「あ、そうなの?」
 口からでたのは、驚きというにはいささか勢いの足りない普段通りの私の声。
 だってしょうがない。私は、意外ではあると思ってはいたものの別段驚いてはいなかったから。
 「で、きりちゃんはどうするの?」
 答えは分かりきっていたけど、一応聞いてみた。
 きっと団蔵も分かってて告白なんて大層なものをしたのかもしれない。自分の気持ちに区切りをつけたかったのかなとも思う。
 私と同じで、団蔵のきり丸への思いも筋金入りで、下手をしたら妄執のようなものに変質してしまいそうなほど危険な均衡を保って胸の内にあるものだったから。
 年々きれいになっていくきりちゃんを見ていて、苦しくて切なくていっそ綺麗さっぱりそこだけ切り取って捨ててしまえればいいのになんて出来もしない妄想に幾度もとりつかれた。
 これ以上入れ込んだら、何もかもを壊してしまうほど危うい情動。
 「・・・断った」
 だろうな、とは想像通りの展開。団蔵には悪いけど。
 きりちゃんは、ずっと見つめている人がいる。 
 ずっとずっと、私たちが出会った頃から。
 あの人に恋をしている。
 「それで・・団蔵にじゃあ、お前は誰が好きなんだっていわれて」
 団蔵も罪なことを言うもんだ。
 彼だって分かっているくせに。
 きりちゃんがずっとずっと焦がれて仕方がない人。けど、絶対に認められない人。
 だから、きりちゃんは気づかない振りをする。本当は気付いているくせに当たり前のように絶対に認めたがらない。
 今が欠片でも壊れてしまうことを恐れて。
 それほど深い・・秘めた恋。
 「俺・・・」
 彼にしては珍しく、こちらの視線を避けて顔が伏せられる。そしてしばしの逡巡のあと、こちらへと向けられたきり丸の少しだけ色づいた頬にどきりと胸が鳴った。
 「俺、乱太郎のことが好きだ」
 余りに本気みたいな顔をしていうから、思わず告げるつもりもなかった本音がぽろりとこぼれた。
 私も、きりちゃんがずっと好きだったんだ・・って。
 自分の恋心を捨てた、臆病な友人に。


 そうやって、私ときりちゃんは恋人になった。
 そんな二人の関係が公になるようになって、私たちは・・・いや、私はいろんな視線に晒されるようになった。
 それは興味であったり好意であったり憎悪であったり軽蔑であったりそして・・同情であったり。
 別に、そんなものはどうでもよかった。
 周りに何を言われようが、どう思われようがちっとも苦しくなかった。
 けれど、団蔵も何かいいたげに時折こちらを見るようになって・・
 それを見る度、私は少しだけ笑みを乗せて彼を見返すのだ。
 うん。大丈夫だよ団蔵。そんなに心配しなくても、私はちゃんと知っているから。
 そして団蔵は、その度に少しだけ悲しそうな顔をする。
 うん。ごめんね団蔵。心配してくれて。けれど、それに答えることができなくて。
 ごめんね。

 私はちゃんと知っている。
 きりちゃんが恋をしているのは私じゃないことを。
 きりちゃんは、私といるときが一番好きだという。暖かくてふわふわして心安らぐ場所なんだと。だから、私が一番好きなんだって。
 でもね。
 それはね、恋とは違うんだよ。きりちゃん。
 優しくて穏やかで心地の良い離したくない時間を私は与えてあげることができるけど、それは恋とは違うんだ。
 なのに、私はそういうきりちゃんに穏やかな笑みを返すことしかできない。
 違うのに。
 私はちゃんと分かっているのに。
 だってきりちゃんは、いつもたった一人のことを見ているって私は知っているから。
 私を見るのとは違う、ずっとずっと強い溶けてしまいそうな強い視線で見ているただ一人存在を。
 愛しい愛しい苦しいって。
 それでも、愚かな私はこの愛しい人の手を離すことができない。
 手の中に落ちてきた哀れな雛鳥を籠に入れて閉じこめておきたいくらいには、私は盲信的に彼のことを愛していたから。
 だからどうか。浚って。
 見えているのに、気付いているのに目を耳をふさぐもう一人の臆病な人へ私は心の底から願い続ける。
 早く、早く私の元から連れ去ってほしい。この、恋に臆病なかわいそうな私の友人を。
作品名:プラシーボ 作家名:霜月十一