WorDs
「どうしようもない言葉遣いたちだと思うんです」
杏里のさながらため息の言葉に帝人はえ、と声を上げた。
杏里はため息を吐き出した口のまま、コーヒーを見下ろす。紀田君と、折原臨也さんは。付け足された主語と先程の形容を掛け合わせ、帝人はあぁと納得のいったような顔をした。
「それと比べれば平和島静雄さんは、沈黙の覇者といったところで」
「なるほど…でも、喧嘩をしてるときは」
「喧嘩をしている時のあの人は意味のある言葉を成さないから」
獣の咆哮と変わらないなら、黙っているよりいけない。(それが唯一彼の持てる自己主張だったとしてもだ!)
杏里はさらりと言ってカップを口に運ぶ。湯気の立つそれを帝人の目が追いかけ、そうだね、と相槌を打って細まった。
「そうして私は、」
『杏里、』
唯一無二の自分が囁いた。杏里は、ちがう、と否定する。わかっているのだけれど。彼らと自分など性別くらいの違いしかない。
――それでも私は、狡猾な人間にも優しい獣にもなれない。
罪歌は悲しそうに黙った。あの声が黙ることなどないのに、まるで、沈黙が愛だとでも言わんばかりに黙った。今日は私の勝ち、と杏里は小さく内心でつぶやき、私はあんまり何も考えていないんです、と遠慮がちに言った。
帝人は少しだけ困ったような素振りをしてから、じゃあ――。
帝人の次の言葉を先回りをして拾った杏里は、竜ヶ峰君は竜ヶ峰君。そう言って気弱そうに微笑んだ。