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【ポケモン】さみしい、かなしい

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 滴る緑。永遠の豊穣。それがこの街の名前だった。彼の故郷よりずっと人の数は多く、それだけにか利便性もずっとよかった。なにしろ故郷にはショップすらなかったものだから、そう感じるのも仕方ないのかもしれない。
 ふわあ、と今日も上手いこと抜け出してきたジムを尻目に大きな欠伸を洩らす。近所のねーちゃんがきゃあと驚き混じりの嬉しそうな声を上げたので適当に手をひらひらと振った。見目は良い方なのだ。
「……なんだかね」
 都会に近い匂いは以前ほどには彼を慰めない。
 今の手持ちに据えているポケモン達は三年前の相棒達とは違っている。ジムリーダーはある一定のラインより上のポケモン達を使ってはいけないんだという窮屈な決まりがあるからだ。別地方のジムバッジを揃えていればまた別なのだけれども。
 彼だけでなく本当はジムリーダーの彼彼女らも、四天王にもまともにやり合えるくらいにはポケモン達を鍛えている。ひとり、四天王の椅子をもぎ取ったジムリーダーがいたように。けれどもその面子が、彼が新米トレーナーだった頃とそう大きく変わらないのは皆の街への思い入れが強いからだろう。
 だからオレは異端なんだろうな。かなり。
 責務をほっぽりだして迷惑かけてもお構いなしなんだから。
 そもそもジムリーダーを務めることになったのも前ジムリーダーが抜けた空欄を早急に埋めなければならなかったからで、まあ成り行き上というものだった。目指していたわけじゃない。大体この話を先にされたのは幼馴染でライバルのあいつの方だ。空欄作る原因作っときながらあっさり蹴りやがってあの野郎。
 それでもこの話を受けたのは、ひとつ気に入っていることがあるからだった。
 足音が草を踏む柔らかい音から硬質なものに変わる。シンプルながらしっかりとした作りの石畳が遠くに見える建物まで伸びていた。窓ガラスが朝日を反射してちかちか光っている。眩しさに目を細めた。
 ……マサラからニビまでトキワを貫く道とは別に、それよりずっと整備されたこの道がこの街には一本通っている。これがなければトキワもマサラ同様、ひなびた田舎街でしかなくなっていただろう。
 この道こそがトキワジムリーダーにチャンピオンを据えたがった理由。

 ―――ここはセキエイへの玄関口だ。

 朝の冷えた空気を吸い込む。喉を滑り込む清涼な空気が肺を満たした。随分と寒くなったものだ。木の合間に羽をふくらませたポッポが何羽か身を寄せ合っていた。マフラーを口元まで引き上げて、脅かさないようその横をそっと通り過ぎる。揃って警戒気味の視線を向けてきたが、それだけで逃げることはなかった。

「……さむい、な」

 マフラーの中に湿った空気と声が籠る。
 あいつはどうしているだろう。寒くても平気で薄着のままでてくる奴だったから小さい頃にはよくオレがマフラーを貸してやっていたのを覚えている。……まあ、すぐにポケモンに又貸ししてやがったが。
 あの頃がときどき堪らなく懐かしくなる。貰ったばかりのポケモンで身体ごとぶつかり合うようなバトルを繰り返していた日々。―――今が不満な訳じゃないのに。
 満足しているのに言いようのないさびしさが心に淀む。あったかもしれない未来と、許されていた頃の過去に対しての苦い羨望。それがわだかまるたび、無性に胸を掻き毟りたくなる。
 オレは未だにこの感情を呑み込めない。
 ゲートの前で立ち止まる。セキエイに向かう道にしては簡素すぎる造りにも思える。今はジョウトにも繋がっているんだったか。中までは入ったことがないのでよく分からない。こうしてたまにここまで足を運んでも、入ろうとは思わない。いや、頼まれても入ってなんかやらねえ。唇を尖らす。それじゃあオレの方ばかり待ち続けてたんだと言わんばかりじゃねえか。
 一年目はなんとか連絡を取ろうと試みた。二年目にはジムを空ける日がちらほらと出てきた。これでもう三年目。連絡はとっくに諦めたしジムから逃げ出す手際もすっかり板についてしまった。それでもカントーからは決して出ない。ここまで来たらもうオレも意地を張るしかなかった。
 とっとと帰ってきやがれ、といつかその背を見送ったゲートを睨みつける。
 怒鳴りつけてやりたい。どこまで行っていたんだと頭を叩いてやりたい。あいつはきっと変わらないままだろうから、この三年で身に付けた大人の対応力で思い切りあたふたさせてやってもいい。それから。……それから。
 唇を噛み締める。三年前にもしていた仕草だった。あの頃はただ負けていることが悔しかった。今はどうしてこんなにもさびしくなってしまうのだろうか。
 自分はあの頃のようなバトルがしたいのだろう。悔しいだけの気持ちに戻りたいとどこかでずっと願っている。―――けしてあの頃には戻れないのは、分かっているのだけれど。

 ぴるるる、と気の抜ける電子音が鳴り響いた。誰だとポケギアの画面を見るが登録外からのようで名前の表示はなく、ただ番号だけが並んでいる。
 思わず眉を寄せた。すごくジムをサボリがちだからそのうちお叱りがあるわよと先日シンオウのチャンピオンに言われたことを思い出していた。だとしたら取りたくねえなあ、とげんなりしてしまう。
 もう五コールほどたっぷり悩んでから、観念して通話ボタンを押し耳を押し当てる。


「―――もしもし?」