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インプリティング

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それからしばらくは、二人無言だった。水平線をゆっくりと夕日が沈んでいくのをただ眺めていた。海風が時折強く二人の髪を揺らしても身動ぎもせずに、潮騒を、防風林のざわめきを、鳥の声を聞いていた。
 互いをもっと知り合いたい──。
 要約すれば、そんな意思を確認した筈なのに。何をと問うことも、我をと語りだすこともなかった。まるで先程のゼロ時間での激闘の反動のように動かないままだった。
 先に動いたのはスガタだった。馴染んだ気配に、付き合いが長い分早く気がついたからだ。
 高台の二人の位置からならばまだ僅かに届く陽光も、少し離れた林にはもう届かず夜の闇を漂わせている。その暗がりから、戻ってきた二人のメイドがこちらを窺っていた。
 あれから大分時間が経ったので、探りにきたのだろう。
「そろそろ帰るか」
 ぽつりと。波うちの水音に紛れてしまいそうなほどの声でタクトが呟いた。その声が、この時間を惜しんでいるように思えるのは、スガタの意識過剰ではないだろう。スガタ自身も同じ思いなのだから。
 だが、暮れて行く空のように。このときが永遠に変わらずにいられはしないことも解っていた。
「そうだな」
 言って。先に踵を返した。そうしないと未練を断ち切れそうになかったからだ。続いたタクトは、跳ねるような小走りでスガタを追い抜いていく。ぴょこぴょこと跳ねる赤毛が遠ざかっていくのを見ていたら、不意に訳の解らない衝動が込み上げてきた。
「タクト!!」
 思わず叫んでいた。驚いたようにタクトが足を止めて振り返った。同じように驚いているメイド達もこちらを見ているがどうでもよかった。
 自分を見返すタクトの猫のような瞳が、まん丸になっている。たったそれだけなのに、何故かくすぐったい様な気持ちが湧き上がる。突然の変化にスガタは戸惑う。だが、それゆえに理屈でなく理解してしまった。タクトが自分を見ていないと嫌だという事に。
「ウチに来ないか? 君と……もう少し話がしたい」
 誘う言葉は自然と出ていた。
 タクトの瞳が迷うように泳ぎかけたかと、心がざわめきかけたその時──
「っくしゅん!」
 ただのくしゃみだったことを知り、密かに安堵する。
 いや、おかしい。何故こんなにも彼の一挙手一投足に注視してしまっているのか。
「汗をかいたままだったから、体が冷えてしまったようだね。そのまま君に風邪を引かせてしまったら、また学校で変に勘繰られそうだ」
 既に、スガタの台詞をどう受け止めたのか、メイド達が一体二人きりの時に何をしていたのかと興味深げに眼鏡を弄っているのが視界に隅に映っていたが。無論、わざわざ説明するつもりはない。
「お前、解っててあんなこと……」
 タクトが呆れたようにに片眉を上げて鼻を鳴らした。無理もない。わざととはいえ、学校での自分はひどい態度だった。
「解っていたけれど、どうしていいか分からない事もあるってことさ」
「島育ちの田舎者だから?」
 呆れた様子のまま。茶目っ気たっぷりにタクトが続ける。まったく。彼の言うとおりだ。
 スガタが笑うと、タクトも笑う。その微笑は、もう夕闇に覆われた林の中だったというのに、キラキラと輝いて見えた。
作品名:インプリティング 作家名:hina