60億分の、1人の、君と
ユ「何? 日向さん」
日「そろそろさ、その日向さんっての、やめにしないか?」
ユ「え、どうして?」
日「俺ばっかユイって呼んでんの、結構恥ずかしいんだぜ? それに、そろそろ名前で呼ばれたいなーなんて。俺の我侭」
ユ「ん~…うん。良いよ、日向さんが、そうして欲しいんだったら」
日「え、マジで!? やり! じゃぁさ、今呼んでくれよ!」
ユ「えっ…い、今っ?」
日「おう。お前の声で、聞きたいんだよ」
ユ「……えっと……じゃぁ、――秀樹…」
日「……」
ユ「……ど、どうしたの。そんな、にやにや、して。ちょっと怖いよ」
日「いや、何かさ…やっと呼んでくれたなって思って…」
ユ「やっとって言っても…私たち、会ってまだ1年も経ってないよ?」
日「いやぁ…言ったこと無かったけどさ、俺、ずっと前からお前に会ったことある気がしててさ」
ユ「え…?」
日「そこは…何か、死んだ後の世界でさ、お前はちゃんと自分の足で立って、歩けていたんだ。そのお前は今よりもっとじゃじゃ馬で、俺とお前は喧嘩ばっかしてた。つっても、互いに了承してる、じゃれ合いみたいなもんだけどな」
ユ「…うん」
日「そんでさ、お前がやりたいことを叶えて行くことになってさ、お前、とんでもないこと言い出したんだよ。…結婚がしたいってな。そんなお前に、俺が、こう言ったんだ。
結婚してやんよ! ってな。もしお前がどんなハンデを抱えてでも。歩けなくても、立てなくても、もし子供が産めなくても、それでも、お前と結婚してやる、ずっとずっと、傍に居てやんよ! …ってな」
ユ「…っ!」
日「もしまた60億分の1の確率で会えたら、結婚してやんよ…。その後に言った台詞は、俺とお前が出会えた方法と、同じことだった。何か…馬鹿みたいな話だし、俺、前世とかそういうの信じてなかったけどさ…これだけは、信じてるんだ。俺とユイは、生まれる前から繋がってたんだ――って」
ユ「……それ、あたしも、覚えてるよ…」
日「え?」
ユ「あたしと――日向さん…ううん、秀樹は、いっつも喧嘩ばっかで、野球大会の時にも、秀樹が球捕ろうとしてたのを、味方だった筈のあたしが、妨害したの」
日「それ――」
ユ「その後、すっごい怒った秀樹が関節技極めてきて…痛かったなー、あれ。へへっ、あー、何だ。あたしだけじゃ、無かったんだ…」
日「じゃぁ…これって、もしかして、本当に…」
ユ「うん…そうかもね…。『ひなっち先輩』…」
日「!! …んだよ。そんな呼び方まで覚えてんのかよ、お前」
ユ「うん。ひなっち先輩のことだもん。忘れる訳ないよ」
日「……俺たち、本当に、出会えたんだな」
ユ「うん…」
日「……奇跡みたいな確率で…出会ったんだな」
ユ「…うん…」
日「俺、今まで信じてなかったけどさ、やっぱ、神様ってのは居るのかも知んねーな! こんな巡り合わせ、滅多にねーぜ!」
ユ「うん、そうだね。…ねぇ、ひなっち、先輩」
日「ん? 何だー?」
ユ「あの宣言は、今でも有効なんだよね?」
日「…当たり前だろ、ユイ。
俺はお前が歩けなくても、立てなくても、子どもの産めない身体だったとしても――お前を好きになった筈だぜ。だから、」
ユ「…うん」
日「俺が、結婚してやんよ! 絶対、絶対、絶対、ぜ~ったい! 俺がお前を、幸せにしてやんよ!」
ユ「……うんっ!」
作品名:60億分の、1人の、君と 作家名:三月