お家までの帰り道
校門をくぐるぎりぎり手前でそう言えば、「途中まで、な」と笑って頷いてくれた。
嬉しくって腕を組むと、今度はちょっと困ったように笑う。
絡めた腕に、ぎゅーっと力を込めると、今度は「転ぶぞ」と心配されてしまった。
「ねえ、遠回りしたい!」
「ダメだ」
「えぇ〜……」
「両親が心配するだろう。――寄り道は、また今度な」
「……うん」
――秋が、いつの間にか終わりかけている。
太陽が沈む時間はどんどん早まっていて、午後五時を過ぎると外はすっかり暗い。
足下を照らす小さな電灯がぽつぽつと並ぶ川沿いの道を並んで歩く間、わたしは色んなことを話し続けた。
――今日の授業で、先生が教えてくれた豆知識。
――部活でおにぎりを作った時のこと。
「夏未さんがね、『うまくできたわ!』って、とっても可愛かったの!前よりもおにぎりを握るのもすごく上手になったし」
「そうか」
他愛も無い話のひとつひとつにちゃんと相槌を打って聞いてくれる。
だから、わたしもつい夢中になって話してしまって、教えてもらうまで家の屋根が見えていたことに気付かなかった。
青い屋根の、『音無』の家。
途中まで、と言っていたのに、何だかんだで家のすぐ前まで送ってくれた。そのまま「じゃあな」と笑ってくるりと背を向ける。
「待って!」
「……?」
「……折角だから、泊まってって」
――このやり取りは、もう何度目だろう?
ドキドキしながら返事を待っていると、ゴーグルをつけていても分かるくらいに『困っている笑み』を浮かべて、
「……また今度な」
という言葉が返された。
「……」
「……」
(……また今度、か……)
――ねえ、それは一体いつになる?
思わずそう尋ねてしまいそうになる自分を何とか抑えて、そっと掴んでいた手を離す。
「……また明日ね」
「――ああ」
そのまま駅に向かって歩き出した背中を見送りながら、手を振って。ふと、一度手を止めてから、今の自分たちについて考えてみる。
帰る家が違う今の生活を、もう『不幸』だとは思わない。
それに、今は自分が大切にされていることも分かっている。
――少し前の状況と比べれば、雲泥の差だ。
(でも……やっぱり、)
――何かが、足りない。
足りないから、噛み合わなくて、どうにも違和感を気にしてしまう。
こればかりは仕方が無いと思いながら、それでも無視することはできなくて……。
――八年は、長い。
連絡も取らなかった八年間。
その間に、たくさんの誤解とすれ違いがあって、今に至る。
一緒にいた時間を超える離れ離れの時間が、八年間。
――――このまま、一緒に色んなことを話したりしながら時間を過ごしていけば、いつかこの感覚は無くなるのだろうか?
無くなる、とまではいかなくても、今ほど気にならなくなるのだろうか――?
(……それは、せめて八年後くらいにならなくちゃ分からないか)
過ぎた時間をもう一度新しく過ごすことはできないから、これから、たくさん話をして、手をつないで、ゆっくりと時間を積み重ねていけばいい。
(つまりはそーゆーことよね!)
ふ、と。もう一度、顔を上げる。
大分小さくなった背中に届くように、息を沢山吸い込んで、思いっきりお腹から声を出した。
《終わり》
伝えた言葉は、どんなコトバ?