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迷はし神

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気付けば家康の前にはひとりの子供がいた。いや、子供のような見かけだが、実はそんなに幼いわけでもない。家康はそれを知っている。黄金色の兜を被り、三つ葉葵の長槍を手持ち無沙汰な様子で振ったり回したりしていた少年は、唐突に家康に視線を向けるとにかりと笑った。
 そして手にした長槍を家康目がけてぶん投げた。妙にゆっくりと飛んだように見えたそれは、過たず家康の胴の真ん中を貫いた。勢いに負けて家康はそのまま仰向けにどっと倒れる。ずぶ、と鈍い音がしたわりに痛みはない。このあたりでそろそろ家康も気付いている。夢か。尋ねれば少年は――竹千代は、くりくりとした眼を家康に向けてそうじゃねえかな、と答えた。答えながら仰向けに倒れた家康のそばへ寄ってきて、その槍の柄に体重をかけるようにして両腕を乗せた。ずぶりとまた槍が沈んだ。それでなぜワシは自分に刺されたのだろうな。家康が気楽に尋ねると竹千代はこともなげに言う。迷いがあるんじゃねえのか、情けねえぞ。まさか、そんなことがあるものか。家康は一瞬とて躊躇せずに笑みすら浮かべて答えた。そのほうがよほど、あいつに対して傲慢だろう。
 家康の曇りのない笑みを見て、ぱちぱちと数回瞬きを繰り返した少年は、ぱあっと顔を輝かせた。そして感心するように言った。たいしたもんだ、上辺をつくろうのが上手くなった。まるで自分が傲慢じゃねえような言い草だ!竹千代が見分するように手を伸ばし、ぺたりと家康の額や頬をかるく叩く。すげえなあ、そうだ、おめえは、迷ってなんかいねえんだ。だって迷えねえんだからなあ。
 家康は竹千代の無邪気な笑顔を見上げた。こぷ、と口の端から赤い泡を噴きながら。つうと零れたそれを見ながら、少年はうんうんと得心するように頷いた。
 そうしなきゃならねえからな、仕方ねえ、“心にもない言葉を吐いて生きてゆく”んだおめえはワシとおんなじでな。
 家康は穴の開いた腹に力を込め、素早く身を起こした。腹の上の槍に体重をかけていた竹千代は、わ、と短い悲鳴をあげて後ろ向きにたたらを踏んだ。そして立ちあがった家康の顔を見て、子供らしい不思議そうな顔で首を傾げた。怒ってんのか。竹千代が問うが家康は答えない。竹千代は続けて言う。そうだよな、だからおめえは、そうしないあいつが得難くて羨ましくてすきだったんだもんなあ。
作品名:迷はし神 作家名:karo