忍文 お題短文2
※上から滝→こへ、竹+雷、六年、金+喜、三ろ、こま利
〇シンドローム
まず心臓だ。
どくどくと胸の内を叩く鼓動が急激にうるさくなる。
次に顔。
どうしたのかと思うくらい血液が一気に集まる。触らなくても熱いだろうということがわかるくらい。
手が震え、足が震え、口を開けば声まで震える。
逃げ出したいのに足は動かず、その一挙一動に感情が嵐のように吹き荒らされる。
(こんなのは病気だ!!)
背を見送るたびにぐったりと寝込んでしまいたい心境にいくらだって慣れることはない。
(滝→こへ)
〇君は誰
「おーーーい!雷蔵っ!!」
「・・駆け寄ってきてくれたところ悪いが、私は三郎の方だ」
「やっぱりか!」
「やっぱりって何だやっぱりって」
「いやーなんとなく雰囲気そうじゃないかなーとは思ったんだけどさ!どっちか微妙の時は俺雷蔵を呼ぶことにしてっから」
「何でまた」
「お前を本物と間違えるならともかく、本物をお前と間違えたら可哀想だろうが」
「どっちにしろわかんないくせに?」
「向こうの気分の問題だろ!それよか雷蔵どこ行ったか知らないか?」
「さぁなぁ・・・図書室じゃないか?」
「図書室な!探してみるわ!じゃあなー!」
また駆け出して行く姿を見送って、思わず苦笑が漏れる。
「・・・・・5年間も一緒の組なのになぁ・・・」
なんとなくで三郎のふりをしてみれば思いがけず通ってしまった。
面白いような、面白くないような。
(でもま、竹谷らしい)
竹谷を追いかけてゆっくりと図書室に向かう。
(竹谷+雷蔵)
〇砂糖菓子
「珍しいものを持ってるな」
金平糖のぎっしり詰まった袋をあらためている仙蔵に気づいて思わず声をかけた。
「ああ、実習先で頂いてな。委員の下級生どもにやろうと思ってたのだが・・・お前も持ってくか?」
思いがけない提案に委員の面々が頭に浮かぶ。団蔵や佐吉の喜ぶ様を想像して、らしくなくも「ああ、じゃあ・・・」と手を出すと
「えー!何々っ!?金平糖!?私にもくれっ!!」
「僕も貰っていい?最近皆頑張ってるから何かあげたかったんだよね」
「余裕があんなら俺にもくれ。しんべヱが特にそういうのに目がなくてな」
「・・・・・私も貰いたい」
どっと後ろから同輩どもが寄ってきた。
なんだかんだで皆委員長なのだ。
(六年)
〇ふたり
がらん、とした板張りの部屋は思ったよりずっと広かった。
先ほどまではまったく感じていなかった心細さが急にこみあげてきたが、案内してくれた先生はとうに居ない。
自分一人の部屋だ。本来は二人(三人のところもあるらしいが)で使うところ、転入生なものだから相方がいないのだ。
ただでさえ付け足しのようなのに、と思えてきて、らしくもなく真ん中で座り込み、少しだけ泣いた。
「・・・で、淋しかったからってナメクジだったのか?」
「うん。前の学校の時から好きだったし、いっぱい居たら淋しくないかなーと思って」
「居すぎだろ」
こめかみを引きつらせながら金吾はごしごしと床を拭いていた。無論ナメクジが這った跡を拭くためだ。
何度とも知れない大掃除に溜息をつかないだけ金吾は慣れた。
「でもさー、だからすっごい嬉しかったんだよ?」
「はいはい、お前ナメクジ大好きだもんな」
「うん!!・・じゃなくてー!金吾が来てくれて一緒の部屋になるってなった時!」
素直な言葉にぴたり、と一瞬手をとめるが、すぐに思いなおして苦々しく口を開く。
「・・・だったらなんでまだナメクジがこんな大量に這ってるのさ」
「えーーだってぼくナメさん大好きなんだもん!嬉しいものはいっぱいあった方がもっと嬉しいじゃない!」
満面の笑みで語る喜三太に、お前の中で僕はナメさんと同列か、と今度こそ金吾は長い溜息だ。
(喜三太+金吾)
〇迷い子
「どーーーーしてお前らはそうなんだっ!!!」
ようやっと首根っこを掴んで帰還したっつーのに当然ながら拍手で迎え入れられるわけでもない。いつものことだからだ。
あんまりに日常と化したものだから級友も先生方も俺一人に任せきりなのを薄情とすら思ってないに違いない。ちょっとあんまりじゃないだろうか。
疲労と空腹と悲しさと怒りの矛先はそんなこんなもひっくるめて目の前の元凶に向くわけだがこいつら。一向に反省する気配がない。
左門は自分の決断に間違いはなかったと授業どころか晩飯まで終わって就寝しようという時間に到着しても自信に満ちた顔を崩さないし、
三之助は三之助で今だ何故自分がこんな状況に陥っていたのかまるで理解していないとしか思えない。
瞬間殺意が膨れ上がるオレを一体誰が責められるだろう。
それは思わず近くの部屋の上級生がこちらを窺ってくる程だったが、
「やー、でも探してくれてありがとなっ!さくべー!」
と、こいつらは至って鈍かった。
本当にこいつら忍者になれんのか。
何よりもまずこいつらの心配をしてしまう自分も今一度考え直す必要がありそうだ。
(三年ろ組)
〇記憶
お決まりの文句を底抜けな笑顔で言い切り、ずずいと差し出されるは入門票。
「・・・・・あのさ、小松田君。もう私達は面識があるんだし、そろそろ顔パスでもいいんじゃないかな?」
前々から言いたかったことを言ってみた。
彼がマニュアル小僧であることは父などから聞いてはいたものの、はっきり言って面倒だし、いつまでも信用がないようでいささか不快だ。
大体この男、入門票にサインしてもらう意味を考えたことはあるのだろうか?
おそらく言われたことをただただ遂行しているだけであろう男は、予想通り子供っぽく口を尖らせる。
「だめですよー。サインしてもらう決まりなんですから!」
はいはい、決まりね、と自分の口が素直に歪むのを感じる。
またずずいと入門票が差し出されるふりだしに戻ると思っていたら、意外にもそれに、と言葉が続いた。
「それに、僕の記憶はてんであてにならないんです。もしかしたら利吉さんも利吉さんじゃないかもしれないじゃないですか!」
だから利吉さんが自分の字で証明してくれるのが一番なんです、と得意気に解説される。得意になられても。
どんだけ記憶に自信がないんだ、とか筆跡を真似られたら意味がないだろう、とか色々と言いたいことはあったが
とりあえず自分の無能を少しは自覚しているらしいと知って、彼に対する認識をほんの少しだけ改めた。ほんの少しだ。
「あっ!それに書いてもらったら利吉さんがいつ来たかとか何回来たかとかわかって嬉しいですし!」
ガキリ。修正されかけた軌道がななめ上に折れた。
本当にこの男はわからない。
(こま利)
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080925
「モノカキさんに30のお題」(配布終了)よりお題拝借して書いたものからいくつか